足跡そくせき)” の例文
ワイニンゲルなんぞの足跡そくせきを踏んでけば、厭世は免れないね。しかし恋愛なんという概念のうちには人生のえいを含んでいる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かくて味方とも散々ちりぢりにわかれて後、義経の足跡そくせきは、四天王寺までは見た者もあるが、そこを立退たちのいた先は、まったく踪跡そうせきくらましてしまった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「探偵さん」の彼は、そこの地面に何かの痕跡を予想していたのだが、行って見ると、果して果して、そこには余りに明白な悪魔の足跡そくせきが残っていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さようなら左門先生! あなたののこした足跡そくせきによって、少年連盟は、二年の露命ろめいをつなぐことができました」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「探偵するつもりじゃなかったが、あの人殺しの運のきさ。実は僕がの室でやっている実験のうちに、犯人の奴がハッキリと足跡そくせきを残して行ったのだよ」
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「山陽は足跡そくせき海内かいだいにあまねしとか、半ばすとか自慢をしていますが、この辺までは来たことはないでしょう」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余は之を以て極めて大なる足跡そくせきの如きもの即ち竪穴に類したるものとなす。余は釧路貝塚の近傍に於て實に大人のあるきたる跡とも形容けいようすべき數列の竪穴を見たり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
(午后イギリス海岸において第三紀偶蹄ぐうてい類の足跡そくせき標本を採収すべきにより希望者は参加すべし。)
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
足跡そくせき常陸ひたち磐城いわき上野こうずけ下野しもつけ信濃しなの、越後の六ヶ国にわたり、行程約百五十里、旅行日数二週間内外、なるべく人跡絶えたる深山を踏破して、地理歴史以外に、変った事を見聞けんもん
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ときとしては柳条にりて深処にぼつするをふせぎしことあれども、すすむに従うて浅砂せんさきしとなり、つひに沼岸一帯の白砂はくさげんじ来る、砂土人馬の足跡そくせき斑々はん/\として破鞋と馬糞ばふんは所々に散見さんけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
舊い頃ではたちばな南谿なんけいと共に可成り足跡そくせきが廣く、且又同じく紀行(漫遊文草)を遺した澤元愷たくげんがいが、この中岩を稱して、その上で酒など飮んでゐる事がその文によつて記臆に存してゐたからである。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その人間的な足跡そくせきのほかに……
武蔵があるいた足跡そくせきの範囲だけを見ても、将来、天下が徳川になろうが豊臣のに帰ろうが、人心の一致している方向はすでにきまっている。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅雨つゆの不順な気候にあてられてか、伊藤一刀斎は、旅籠はたごで病みついてしまった。そこへ駿府すんぷから徳川家の重臣が、彼の足跡そくせきをたずねて追って来た。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唐草銀五郎の遺志をついで、今宵こよい初めて望む所の秘密境へ、一歩の足跡そくせきをつけた彼も、それをわずかの思い出として、ここに進退きわまるであろうか?
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の足跡そくせきは関東にあまねく、神社仏閣のある所で、奈良井の大蔵の寄進札を見かけない霊場はないくらいだが、この奇特人きどくじんが、その金をどこから運んできているかは、誰も詮議せんぎをしてみた者はない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)