詰責きっせき)” の例文
そこまで考えると、三枝子は最早もはや夫に対して昨夜のことを詰責きっせきせずにはいられない気がした。彼女は夫の方をぬすみ見た。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
本棚のしみを防ぐ樟脳しょうのうの目にしむ如きにおいは久しくこの座敷に来なかったわたしの怠慢を詰責きっせきするもののように思われた。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女をかばってやらなければならない者すら身の潔白を表わすに急で、強く厳しく、彼女を詰責きっせきするようにさえ見えた。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
こう口へ出して詰責きっせきすると、今まで抑えに抑えていた憤怒がかっと燃えあがった。彼は大きな手で卓子テーブルをがんがん叩きながら女を罵倒し、威嚇した。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
詰責きっせきに近い手紙を津田の父から受取った彼は、ほとんどこの事件を念頭においていなかっただけに、驚ろかされた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
運送店に捜すよう詰責きっせきしたが、絶えて返事が無かった。ただ、先生のお写真のみは今なお僕の北京ペキン寓居ぐうきょの東側の壁に、書卓のほうに向けて掛けてある。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と云ってから、法水は検事と熊城に詰責きっせき気味な視線を向けた。「だいたい何故扉の浮彫を見ても、君達は、傴僂せむしの眼が窪んでいるのに気がつかなかったのだね」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
どんな詰責きっせきでも、処分でも受けるつもりで来たのに、藤本は、裏切った勝則を助けようというのだった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
が、彼女と面と向って、不信を詰責きっせきしようとしたとき、自分はかえって、彼女から忍びがたい恥かしめを受けた。自分は小児のごとく、飜弄ほんろうされ、奴隷どれいの如くいやしめられた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今ここにしるすまでもなきことなり、直ちに重井と泉に向かってその不徳を詰責きっせきせしに、重井は益〻その不徳の本性ほんしょうを現わしたりけれど、泉は女だけにさすがに後悔こうかいせしにやあらん
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
蒼面そうめん、乱髪、帯もめず、衣服も着けず、素肌に古毛布ふるげっと引絡ひきまといて、破れたる穴の中よりにょッきと天窓を出だせるのみ、歩を移せば脛股けいこすなわち出ず、警吏もしその失体を詰責きっせきせんか
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お銀様はこらえきれなくなったから、声をふるわして折助どもを詰責きっせきしました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私に武者振りついても、飽くまで詰責きっせきしようと待構えていた母も、これですっかり気先きさきくじかれて、苦笑するより仕方ありませんでした。そのあと母は泣き出して、おろおろ声で及川に頼むのでした。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
義通は唇をわなわなさせ、あくまで、詰責きっせきしてやみません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらたまってその無礼ぶれい詰責きっせきするつもりであったらしい。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
が、彼女と面と向って、不信を詰責きっせきしようとしたとき、自分はかえって、彼女から忍びがたい恥かしめを受けた。自分は小児のごとく、翻弄ほんろうされ、奴隷どれいの如くいやしめられた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小林はわざと空々そらぞらしい様子をした。はてなと考える態度までよそおって見せた。お延は詰責きっせきした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
詰責きっせきなのです、その唯一の血筋でありながら、家をも親をも顧みない私というものを責めるのは、責めるのが本来で、責めらるるが当然です、けれども、責められたからとて、叱られたからとて
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これにも前に劣らないほど厳しい詰責きっせきの言葉がありました。養家先ようかさきへ対して済まないという義理が加わっているからでもありましょうが、こっちでも一切いっさい構わないと書いてありました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)