見悪みにく)” の例文
旧字:見惡
その容子ようすといったら見るからが嫌な風采ふうさいで、私が法王の秘密用を帯びて居るといい出すとたちまちひしげて見悪みにくいほどお辞儀じぎばかりして居りましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
敬太郎もつい釣り込まれて、見悪みにくい外をかすようにながめた。やがて電車の走る響の中に、窓硝子まどガラスにあたってくだける雨の音が、ぽつりぽつりと耳元でし始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何どうするだろうと内々ない/\局の朋輩も噂していた程であったが、お秀は顔にも出さず、何時も身の周囲まわり小清潔こざっぱりとして左まで見悪みにく衣装なりもせず、平気で局に通っていたから
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
およそ何事においても行きづまれるは見悪みにくきものなるが、ことに理想において行きづまり、若い気のなくなった人は、まるで枯木かれきに弾力なきにひとしく実にみすぼらしい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まど内側うちがわから見悪みにく鉄格子てつごうしめられ、ゆかしろちゃけて、そそくれっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
細身さいしん柳腰りうえうの人、形態けいたいかぜにも堪へざらむ、さまでに襲着かさねぎしてころ/\見悪みにくからむを恐れ、裾と袖口と襟とのみ二枚重ねて、胴はたゞ一枚になし、以て三枚襲に合せ、下との兼用につるなり
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると先刻さっき見た梧桐ごとうの先がまたひとみに映った。延びようとする枝が、一所ひとところり詰められているので、またの根は、こぶうずまって、見悪みにくいほど窮屈に力がっている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女はこの句を生れてから今日きょうまで毎日日課として暗誦あんしょうしたように一種の口調をもってじゅおわった。実を云うと壁にある字ははなはだ見悪みにくい。余のごときものは首をひねっても一字も読めそうにない。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)