西陽にしび)” の例文
一人はまた、いつ見ておいたのか、上人の居室の窓に西陽にしびがあたるので、そこへ高い垣をって、糸瓜へちまの苗を植えようかなどと話している。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午後のあるとき、私は頭を擧げて、そして四邊あたりを見𢌞し、傾きかけた西陽にしびの影を壁の上に曳いてゐるのを見て、私はいた。「どうしたらいゝのだらう?」
あれくらいにして西陽にしびを通さないと、西北側の白蟻は防げないんです……おっしゃるとおり、妙なペンキの色ですが、テルモールや、藍色油らんじきゆなんてえ防蟻剤を交ぜたから
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私はうだりきって疲れて空腹で、そうして傾いた西陽にしびかれながら歩いていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だから、小料理屋と言うより、一杯飲み屋の構えだが、小鉢物ぐらいは出すらしいいきな構えで、あいにく今は西陽にしびがカンカンさしている二階には、お客の招ける座敷もあるようだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
どこともなく、ただよいだした黄昏たそがれの色あい——すすけた狩野かのうふうな絵襖えぶすまのすみに、うす赤い西陽にしびのかげが、三角形に射している。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天気のいい日は、家の正面にまともに西陽にしびがさしかけ、りかえった下見板したみいたがほこりっぽく木目を浮きあげる。雨の日は、看板のうしろの窓の鎧扉よろいどが、ひっそりとしずくを垂らしていた。
彼は、眠たげな欠伸あくびをかみころしていたような顔を、大小名の溜りの間から、廊の西陽にしびのうちに現わして“供待ち”にいる郎党の名を呼んでいた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
檐に近いところでは、れいのひょろ松、熱い瓦を踏みながら、ひさしをのぞきこんだり、樋口を調べたり、河から照りかえす西陽にしびをまっこうに浴びながら、大汗になって屋根の上を走りまわっている。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いつか、中庭の西陽にしびもかげり、冷ややかな夕風のおとずれと共に、役宅の書記、その他の役人も、ぼつぼつ退いていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところへ、あるじなる茶屋の名物婆さんが戻って来たので、男はここへ来た用件を話し、西陽にしびを見て腰を立てかけましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここはまた、かんかんと西陽にしびしている。——すぐそう思うだけでも、気持が贅沢に変っているのだと思いながら
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本能寺の空濠からぼりには、西陽にしびが赤く落ちていた。六月朔日ついたちは、一日じゅう京都もひどく照りついて、かなり深い濠の底まで、ところどころ泥のかわきを見せていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血のような西陽にしびと草いきれの中で、いんいんと、高く低く、貝の音が次々に答え合って、鳴りぬいていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒がれると、西陽にしびが、頭からした。お蔦は、その西陽も感じないように、しゃべってあるいた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてその石のおもて西陽にしびのうすれて来る頃、石の前で、誰かひそひそ話している声が聞えた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西陽にしびの影はもう大地にない。あか余映よえいを雲の端にのこしているだけだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方かなたの森の中からである。程なくそこの篠村八幡の境内から光秀以下、騎馬の幕僚ばくりょうたちが、西陽にしびを斜めに、燦々さんさんとして騎歩しずかに、各部隊をえっしながら順次こなたへ近づいて来るのが見られた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬の汗、人の汗に、西陽にしびが赤々と光っている、蜿蜒えんえんと長い列だった。兵だけでも百人からいよう。徴発された百姓も、大勢見えるし、甲州者の人夫も馬を曳き、牛車の歯車に手をかけて廻している。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向う両国には西陽にしびがすこししていた。雲はあかい、水は青い。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう、西陽にしびが、沈みかける。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西陽にしびを見て、彼が
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤い西陽にしびをうけて。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)