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藥舖
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くすりや
其の
醫者は
鉛筆で
手帖の
端へ
一寸書きつけて、それでは
直に
此を
藥舖で
買つて
來るのだといつた。それから
自分の
家へ
此を
出せば
渡して
呉れるものがあるからと
此も
手帖の
端を
裂いた。
勘次は
又川を
越えて
走つた。
藥舖では
罎へ
入れた
藥を
二包渡して
呉れた。
一罎が七十五
錢づゝだといはれて、
勘次は
懷が
急にげつそりと
減つた
心持がした。
彼は
蜻蛉返りに
歸つて
來た。
醫者は
更に
勘次を
藥舖へ
走らせた。
勘次は
只醫者のいふが
儘に
息せき
切つて
駈けて
歩く
間が、
屹度どうにか
防ぎをつけてくれるだらうとの
恃もあるので
僅に
自分の
心を
慰め
得る
唯一の
機會であつた。