薄情はくじょう)” の例文
なんというまちひとたちは、薄情はくじょうなものばかりだろう。それほど、なにかいそがしい仕事しごとがあるのかと、おじいさんは不思議ふしぎかんじたのでした。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は、そのあり方を尊いものと思わぬわけではないが、本来根気乏しいのか、薄情はくじょうなのか、そこまで気を用うることが出来ぬ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
すると、早百合姫に附添つきそっていた家来の男女は、薄情はくじょうなもので、両人しめし合せ、館も人手に売渡うりわたし、金目のものは残らずさらってどこかへ逃亡とうぼうしてしまいました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕を危険きわまりない謎の陰謀者のところへ使者にやり、そしてそこで僕が殺されるであろうことを知っていながら、僕を行かせようというカビ博士の薄情はくじょうさ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まあ、あなただったの?」と、彼女は薄情はくじょう薄笑うすわらいをうかべて言った。——「こっちへいらっしゃい」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そのように薄情はくじょうにするなら、御息女のことを、世間にいいふらす——と、あたくしが、焼餅やきもちこうじて申したのがきっかけで、あんな馬鹿らしいことになったのでございました
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まさか土地柄とちがら、気性柄蝶子には出来なかったが、といって、わてを芸者にしてくれんようなそんな薄情はくじょうな親テあるもんかと泣きこんで、あわや勘当かんどうさわぎだったとはさすがに本当のことも言えなんだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族にいずる者多しといえども、従来少しもその藩政にくちばしを入れず、旧藩地に何等なんらの事変あるもてんとして呉越ごえつかんをなしたる者なれば、往々おうおうあやまっ薄情はくじょうそしりうくるも
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私は、一面このように薄情はくじょうらしいけれども、幸に母親はこれと違っている。道徳だか本能だか知らないが、子供のためには献身的けんしんてきの愛情をさしむけている。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「なんという、人間にんげんは、あさましいこころをもっているのでしょうか。天国てんごくには、こんなかんがえをもっているようなものや、薄情はくじょうなものは一人ひとりもないのに!」とおもいました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おい、そんな薄情はくじょうなことをいうな。おーい、何とか助けてくれ。あ、電話を切っちゃいかん。……」
みつは、ふかかんじたので、丁寧ていねいあたまげて、交番こうばんましたが、みちあるきながら、もし、その主人しゅじんというのが、薄情はくじょうで、もののわからぬ人物じんぶつであったらどうであろう。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そりゃ、すこし薄情はくじょうだな」
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)