若干なにがし)” の例文
こう云いながら若干なにがしかのお金を、おきたの前へ差し出して、自分の方が嬉しそうに、三十郎が笑ったのは、数日後のことであった。
一枚絵の女 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かぞえてみると、ひどいもので、七十四両と若干なにがしになっていた。そして、袋のうえには、なるほど、武家奉公もしたらしい見事な書体で
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
理窟はなしにとぼけていて飛んだ可いが、いや、大人気もなくその尻馬に乗って、利のつく金を若干なにがしと痛んだ、この遠山先生も悪くはあるまい
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ガラッ八は自分の懐みたいな顔をして、鷹揚おうように勘定をすると、若干なにがしか心付けを置いて、さて妻楊枝つまようじを取上げました。
養女をば若干なにがし財産かねを付けて実家へ返へして仕舞つた。うちは親父の病気を頼みきりにした医師への礼にやつて仕舞つた。かくて翁は全く家を外の人になり終つた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その十銭を娘は意地悪の職人に渡したが、それからは娘は毎日屹度若干なにがしづゝの無心を言ふ事になつた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
流石さすがに今でも文壇に昔馴染むかしなじみが無いでもない。恥を忍んで泣付いて行ったら、随分一肩入れて、原稿を何処かの本屋へかたづけて、若干なにがしかに仕て呉れる人が無いとは限らぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのくせ月々若干なにがしみついでってくれる訳には行くまいかという相談をすぐその後から持ち出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同時にまたあの事件を何人なんびとの利益のために、何人なんびとに依頼されて実行したかをあばくことの出来る人間であるということを、現在巴里パリーに時めく若干なにがしかの紳士ジェントルマン等に思い知らせるためである。
して其れで若干なにがしかの報酬をると云ふ事はほとんど不可能である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ガラツ八は自分のふところ見たいな顏をして、鷹揚おうやうに勘定をすると、若干なにがしか心付けを置いて、さて妻楊枝つまやうじを取上げました。
書掛けた小説を書上げて若干なにがしかの原稿料を受取ったから、明日あすは早速送金しようと思っていた晩に、お糸さんがしきりに新富座しんとみざの当り狂言のうわさをして観たそうな事を言う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「馬鹿あ言え。畳算たたみざんより目の子算用を先に覚えようという今時の芸妓げいしゃに、若干なにがしか自腹を切らせたなあ、大したもんだ、どれちょっと見せねえ、よ、ちょっと拝ませねえかよ。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、若干なにがしかを寄進したが、ふと壁に見える参詣者の寄進札のうちに、眼をみはった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高信たかのぶさんが、銀貨ぎんくわ若干なにがし先棒さきばうてのひらへポンとにぎらせると、にこりとひたいをうつむけたところ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、若干なにがしかの金子きんすまで、嘉兵衛は能八郎の手から、日吉へ授けて、いうのであった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見ると金子きんす五千疋、明治の相場で拾円若干なにがしを、わざと古風に書いてある。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小次郎は、巾着の中から、若干なにがしかの金をつまみ出して馬上から
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若干なにがしかお鳥目をはずんで、小宮山は紺飛白こんがすり単衣ひとえ白縮緬しろちりめん兵児帯へこおび麦藁むぎわら帽子、脚絆きゃはん草鞋わらじという扮装いでたち、荷物を振分にして肩に掛け、既に片影が出来ておりますから、蝙蝠傘こうもりがさは畳んでひっさげながら
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)