つら)” の例文
その時分じぶん夫婦ふうふ活計くらしくるしいつらつきばかりつゞいてゐた。宗助そうすけ流産りうざんした御米およねあをかほながめて、これ必竟つまり世帶しよたい苦勞くらうからおこるんだとはんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その時分の夫婦の活計くらしは苦しいつらい月ばかり続いていた。宗助は流産した御米のあおい顔を眺めて、これも必竟つまりは世帯の苦労から起るんだと判じた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上兄の精神状態をそこに導いた原因として、どうしても自分が責任者と目指されているという事実を、なおさらつらく感じなければならなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此時このとき宗助そうすけつて、醫者いしやるのをいまいまかとけるこゝろほどつらいものはなかつた。かれ御米およねかたみながらも、えずおもて物音ものおとくばつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この時の宗助に取って、医者の来るのを今か今かと待ち受ける心ほどつらいものはなかった。彼は御米の肩を揉みながらも、絶えず表の物音に気を配った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仕舞しまひには我慢がまんしてよこになつてゐるのが、如何いかにもつらかつたので、看護婦かんごふかへつたあくに、こつそりきてぶら/\してたが、それでもこゝろせま不安ふあんは、容易よういまぎらせなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しまいには我慢して横になっているのが、いかにもつらかったので、看護婦の帰ったあくる日に、こっそり起きてぶらぶらして見たが、それでも心にせまる不安は、容易にまぎらせなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それも句作に熱心で壁柱かべはしらへでも書き散らしかねぬ時代ならとにかく、書く材料の払底ふっていになった今頃、何か記念のためにと、短冊たんじゃくでも出された日には、節季せっきに無心を申し込まれるよりもつらい。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)