芽生めば)” の例文
それが茶に対する風雅な熱意ばかりであるのかと思ふと、さうではなく、それに芽生めばえたいろいろな俗情が頭をもたげて来るのであつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ただこの花でむずかしいのは、芽生めばえのうちから葉の形で八重やえ一重ひとえを見分けて、一重をてて八重をのこすことであった。
親切な感情などの芽生めばえが最も良い生れの者と同じに彼等の心の内にもあるらしいといふことを忘れてはならない。
何しろお前たちは見るに痛ましい人生の芽生めばえだ。泣くにつけ、笑うにつけ、面白がるにつけ淋しがるにつけ、お前たちを見守る父の心は痛ましく傷つく。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は、久方振ひさかたぶりのこうした安楽した気持におちついたので、願わくば、今二三月もこの土地で静養したいものだと、ふとそんな贅沢ぜいたくな心が芽生めばえてくるのだった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひそかな芽生めばえを乙女の胸にもちながら、その芽を、あらぬ男に——あの吉岡清十郎にふみにじられて——住吉の海へまっしぐらに駈けこんだ時には、ほんとに
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「山県大弐、藤井右門、この人々の行ないこそは、あまりに行き過ぎたる行ないでござって、芽生めばえんとした尊王抑覇よくはの大切の若芽を苅り取りたるものでござる!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして今その種の研究の芽生めばえが、大陸で現実に育ちつつある姿を見て、非常に心強い気がした。
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
清正は香染こうぞめの法衣ころもに隠した戒刀かいとうつかへ手をかけた。倭国わこくわざわいになるものは芽生めばえのうちに除こうと思ったのである。しかし行長は嘲笑あざわらいながら、清正の手を押しとどめた。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少年ハイドンの楽才はモーツァルトのように奇蹟的きせきてきではなかったが、かなり早くから芽生めばえ、六歳のとき早くも遠縁の音楽家フランクの家庭に託されて、基礎的な教育を受け
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
父は貧しいくつ職人であったが、折にふれて幼いアンデルセンにおとぎばなしや物語などを読んで聞かせた。文学への興味はこのころの父の感化によって芽生めばえたといってもよい。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
父は貧しいくつ職人であったが、折にふれて幼いアンデルセンにおとぎばなしや物語などを読んで聞かせた。文学への興味はこのころの父の感化によって芽生めばえたといってもよい。
オリヴィエの生命からえ出たその若い芽生めばえのうちに、彼は真新しくよみがえった。
しみじみと深く心に感じたところにいい句が芽生めばえる。(『ホトトギス』、二四、九)
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ただ鼻の下に薄黒くひげ芽生めばえが植え付けてないのでさては別人だと気が付いた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
反動的な嫌悪けんおの情が彼の総身に寒気さむけを立てさすであろうとは思ったが、それと同時に、何か腹癒はらいせに彼女をさんざんもてあそんでやりたいような悪魔的な野心も芽生めばえないわけに行かなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だから、言って見れば、泡鳴に、霊の恋が芽生めばえさえすればいのだ——
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ひろい意味においては是も発見であり、地理学の芽生めばえであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
北陸のある都市で澄子の恋愛は芽生めばえたという。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
どこまでも俳句として芽生めばえ、発達存在しておる。他の一般文学とは類を異にする。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かの女と逸作が、愛して愛して、愛し抜くことにって息子の性格にも吹き抜けるところが出来でき、其処から正直な芽や、怜悧れいり芽生めばえがすいすいと芽立って来て、逸作やかの女をよろこばした。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人々はこのやさしい小さな芽生めばえを、社交に引き入れたり芝居に連れていったりした。彼女はもう子どもではないのに、皆から子どもとして取り扱われ、自分でもやはり子どものように思っていた。
咲かない土に芽生めばえた花、それが、自分の恋ではなかろうか。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の動乱はそこから芽生めばえはじめた。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)