腰障子こししょうじ)” の例文
出口の腰障子こししょうじにつかまって、敷居しきい足越あごそうとした奈々子も、ふり返りさまに両親を見てにっこり笑った。自分はそのまま外へ出る。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ト日があたってあたたたかそうな、あかる腰障子こししょうじの内に、前刻さっきから静かに水を掻廻かきまわ気勢けはいがして居たが、ばったりといって、下駄げたの音。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土の上に散らばっている書類を一纏ひとまとめにして、文庫の中へ入れて、霜と泥に汚れたまま宗助は勝手口まで持って来た。腰障子こししょうじを開けて、清に
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこにはきれいな箒目ほうきめを縦横にしるした白砂で埋まった四角な広い庭があり、それをとり囲んで二方にはすっきりとした廊下ろうかの半ば白い腰障子こししょうじが並んでいたのでした。
その公方さま花の御所の御造営にはいらかに珠玉を飾り金銀をちりばめ、そのついえ六十万さしと申し伝えておりますし、また義政公御母君御台所みだいどころの住まいなされる高倉の御所の腰障子こししょうじ
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
それがためかすすけた軒の腰障子こししょうじに、肉太にしたためた酒めし、御肴と云う文字がもっとも劇烈な印象をもって自分の頭に映じて来た。その映じた文字がいまだに消えない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むこうて筋違すじっかいかどから二軒目に小さな柳の樹が一本、その低い枝のしなやかに垂れた葉隠はがくれに、一間口けんぐち二枚の腰障子こししょうじがあって、一枚には仮名かな、一枚には真名まなで豆腐と書いてある。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その公方さま花の御所の御造営にはいらかに珠玉を飾り金銀をちりばめ、そのついえ六十万さしと申し伝へてをりますし、また義政公御母君御台所みだいどころの住まひなされる高倉の御所の腰障子こししょうじ
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そこにも摺硝子のまった腰障子こししょうじが二枚閉ててあった。中では器物を取り扱う音がした。宗助は戸を開けて、瓦斯七輪ガスしちりんを置いた板の間に蹲踞しゃがんでいる下女に挨拶あいさつをした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……行くと、腰障子こししょうじの、すぐ中で、ばちや/\、ばちやり、ばちや/\と音がする。……
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ミルクホールに這入はいる。上下うえした硝子ガラスにして中一枚をとおしにした腰障子こししょうじに近くえた一脚の椅子いすに腰をおろす。焼麺麭やきパンかじって、牛乳を飲む。懐中には二十円五十銭ある。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その途中に暖簾のれんが風に動いていたり、腰障子こししょうじに大きなはまぐりがかいてあったりして、多少の変化は無論あるけれども、軒並のきなみだけを遠くまで追っ掛けて行くと、一里が半秒はんセコンドで眼の中に飛び込んで来る。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを通り過ぎると黒くくすぶった台所に、腰障子こししょうじの紙だけが白く見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから門前の豆腐屋がこの鉦を合図に、腰障子こししょうじをはめる
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)