“背面(うしろ)” の例文
頬冠りしたる彼(か)の馬十、鍬を荷(かつ)ぎてわが居る方丈の背面(うしろ)に来り、彼(か)の梅の古木の根方を丸く輪形に耕して、豆のやうなる種子を蒔き居り。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大層遅かったではないか、と云いつつ背面(うしろ)へ廻って羽織を脱がせ、立ちながら腮(あご)に手伝わせての袖畳み小早く室隅(すみ)の方にそのままさし置き
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
森の中から背面(うしろ)の大畠(おおばたけ)が抜けられますと道は近うございますけれども、空地でもそれが出来ませんので、これから、ずっと煙硝庫(えんしょうぐら)の黒塀について、上(のぼ)ったり、下(くだ)ったり
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むかし思(おも)へば忍(しのぶ)が岡(おか)の名(な)も悲(かな)しき上野(うへの)の背面(うしろ)谷中(や か)のさとに形(かた)ばかりの枝折門(しをりもん)、春(はる)は立(たち)どまりて御覽(ごらん)ぜよ、片枝(かたえ)さし出(だ)す垣(かき)ごしの紅梅(こうばい)の色(いろ)ゆかしと延(の)びあがれど、見(み)ゆるは萱(かや)ぶきの軒端(のきば)ばかり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その手前の横丁の角が鰌屋(どじょうや)(これは今もある)。鰌屋横丁を真直に行けば森下(もりした)へ出る。右へ移ると薪炭(しんたん)問屋の丁子屋(ちょうじや)、その背面(うしろ)が材木町の出はずれになっていて、この通りに前川(まえかわ)という鰻屋がある。
彼はこの隙にジルベールを伴(つ)れて湖水の岸まで逃げようかと思った。しかし逃げたとしても背面(うしろ)からあびせられる敵の砲火にどうして湖水を渡れよう?とそう思うと、彼はつと戸を閉じて閂(かんぬき)を下した。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
心配を輪に吹き/\吸て居し煙草管(きせる)を邪見至極に抛り出して忙はしく立迎へ、大層遅かつたではないか、と云ひつゝ背面(うしろ)へ廻つて羽織を脱せ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私は課業の休みの時間になりますと、よく便所の背面(うしろ)から弓の道場の板囲いの蔭に隠れて、あの廃屋の二階に上りました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ああ驚いちゃった。料理部屋の背面(うしろ)なんです。あすこの石炭(すみ)の山の上にエムプレス・チャイナの青い金モール服を
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今朝背面(うしろ)から我が縫ひし羽織打ち掛け着せて出したる男の上を気遣ふところへ、表の骨太格子手あらく開けて、姉御、兄貴は、なに感応寺へ、仕方が無い、それでは姉御に
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
思いがけない野原となったり、眩(まぶ)しい夕焼けの空となったり、又はなつかしい父親の横顔になったり、母親の背面(うしろ)姿になったりして、切れ切れのままハッキリと
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今朝背面(うしろ)からわが縫いし羽織打ち掛け着せて出したる男の上を気遣うところへ、表の骨太格子(ほねぶとごうし)手あらく開(あ)けて、姉御、兄貴は、なに感応寺へ、仕方がない、それでは姉御に
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何とかしてやらなければ堪(た)まらないほど痛々しい少女の泣声と、そのいじらしい背面(うしろ)姿が、白い寝床の上に泣伏して、わななき狂うのを、どうする事も出来ないのが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
思わず転ぶを得たりやと笠(かさ)にかかって清吉が振り冠(かぶ)ったる釿の刃先に夕日の光の閃(きら)りと宿って空に知られぬ電光(いなずま)の、疾(と)しや遅しやその時この時、背面(うしろ)の方に乳虎一声、馬鹿め
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
疾しや遅しや其時此時、背面(うしろ)の方に乳虎(にうこ)一声、馬鹿め、と叫ぶ男あつて二間丸太に論も無く両臑(もろずね)脆く薙(な)ぎ倒せば、倒れて益〻怒る清吉、忽ち勃然(むつく)と起きんとする襟元把(と)つて、やい我(おれ)だは
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)