肉塊にくかい)” の例文
そこには、ゴチャゴチャと無数の肉塊にくかいうごめいていた。人肉の万華鏡ばんかきょうみたいなものが、眼界一杯に、あやしくも美しく開いていたのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
親の責任が特に軽くなったわけではないけれど、いずれも生れたてのあの柔かい肉塊にくかいに対して感じた責任感は、少し気軽きがるになった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
やがて最初のの肉のところへくると、大きな足跡が、そこへ立ちどまった形に残っていて、肉塊にくかいはなくなっている。
光枝が見ると、旦那様は、壁の方に向き伏して、その大きな肉塊にくかいが、早いピッチでうごめいているのを認めた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
暗い、きたない、ごみごみした家に沢山の大小の肉塊にくかいがころがって居るのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼等は声と、鼻息と、跫音と、きぬずれの音と、そして、幾つかの丸々とした弾力に富む肉塊にくかいに過ぎないのでございます。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
九百匁の肉塊にくかいが、次第に増量して行くことは世のつねであるが、ただ違ったのは、私がいつも在宅であることである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
ふくら脛のすこし上のところに、まだ一度も陽の光に当ったことがないようなむっつり白い肉塊にくかいがあって、象牙ぞうげりきざんだような可愛い筋が二三本っていた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
次の瞬間、何かしらサッと、稲妻の様なものが閃いたかと思うと、横わっていた肉塊にくかいが、非常ないきおいで飛上った。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは手術に電気メスを使うようになって、厚い皮膚でも、たくましい肉塊にくかいでも、それからまたかたい骨でも、まるでナイフで紙をくように簡単に切開できるせいだった。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その一方、白丘ダリアは益々ますます健康に輝きくびから胸へかけての曲線といい、腰から下の飛び出したような肉塊にくかいといい、まるで張りきった太い腸詰ちょうづめ連想れんそうさせる程だった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、経帷子で指環を小さくくるみ、懐中にねじ込むと、足許あしもとにころがっている、素裸体すっぱだか肉塊にくかいを、さも面倒臭めんどうくさ相に、手と足を使って、新しく掘った墓穴の中へ、落しこんだのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
九個のバラバラの肉塊にくかいにし、蟒どもに振舞ってやったら、さぞよろこんで呑むことでしょうな
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
切岸きりぎしから、飛び込む肉塊にくかいの群、舟の上から透いて見える池中の人魚共、魚紋と乱れる水中男女の「子を取ろ、子取ろ」、人間のたきと落下するウォーターシュートの水しぶき……客達はすでにして
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
頸動脈けいどうみゃくを切断して、ドンドンその濁った血潮ちしおをかいだしても、かい出しつくせるものではなかった。彼の肉塊にくかいをいちいち引裂いて火の中に投じても、焼き尽せるものではなかった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女史の豊満な白い肉塊にくかいを更に生かすつもりであったことと、女史が最後につけていた長襦袢ながじゅばんが驚くべき図柄ずがらの、実に絢爛けんらんきわめた色彩のものであったことを述べて置くにとどめたい。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
胸をふさぐような煙硝えんしょうの臭い、叫び声をあげてける砲弾、悪魔が大口を開いたような砲弾の炸裂、甲板かんぱんに飛び散る真紅な鮮血と肉塊にくかい、白煙を長く残して海中に墜落してゆく飛行機
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)