老鋪しにせ)” の例文
お米といって、これはそのおじさん、辻町糸七——の従姉いとこで、一昨年おととし世を去ったお京の娘で、土地に老鋪しにせ塗師屋ぬしやなにがしの妻女である。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の噂では、日清戦争頃に、秋田あたりの岩緑青いわろくしょうを買占めにかかったのが、当ったので、それまでは老鋪しにせと云うだけで、お得意の数も指を折るほどしか無かったのだと云う。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
継いだばかりです。昔からの老鋪しにせですから、財産は随分ありましょう。同業者中でも屈指だそうです。宇治うじに別荘があります。店丈けでも雇人が十何人とか申しました。工場の方は……
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さて、店を並べた、山茱萸やまぐみ山葡萄やまぶどうのごときは、この老鋪しにせには余り資本がかからな過ぎて、恐らくおあしになるまいと考えたらしい。で、精一杯に売るものは。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
京師けいし張廣號ちやうくわうがうは、人參にんじん大問屋おほどんやで、きこえた老鋪しにせ銀座ぎんざ一番いちばん、とふづツしりしたものである。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大火鉢おほひばちがくわん/\とおこつて、鐵瓶てつびんが、いゝ心持こゝろもちにフツ/\と湯氣ゆげててる。銅壺どうこには銚子てうしならんで、なかにはおよぐのがある。老鋪しにせ旦那だんな新店しんみせ若主人わかしゆじん番頭ばんとうどん、小僧こぞうたちも。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
柳屋やなぎや土地とち老鋪しにせだけれども、手廣てびろあきなひをするのではなく、八九十けんもあらう百けんらずの部落ぶらくだけを花主とくいにして、今代こんだい喜藏きざうといふわか亭主ていしゆが、自分じぶんりに𢌞まはるばかりであるから
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
柳屋は土地で老鋪しにせだけれども、手広くあきないをするのではなく、八九十軒もあろう百軒足らずのこの部落だけを花主とくいにして、今代こんだい喜蔵きぞうという若い亭主が、自分で売りにまわるばかりであるから
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)