美麗きれい)” の例文
こずえの上には、チラと人影がある。星明りをかしてみると、女らしい美麗きれいたもとと白い顔が、細やかな松の葉の中におののいているのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいよ。」とおかあさんがって、はこなかから美麗きれい林檎りんごして、おんなにやりました。そのはこにはおおきな、おもふた頑固がんこてつじょうが、ついていました。
彼の眼の前には神中の白い左の手の指が、美麗きれいきとおるように見えていた。彼はそのままその紙捻こよりを人さし指に巻きつけて、三度まわしてきちんと縛った。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鈴木君は頭を美麗きれいに分けて、英国仕立のトウィードを着て、派手な襟飾えりかざりをして、胸に金鎖りさえピカつかせている体裁、どうしても苦沙弥くしゃみ君の旧友とは思えない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は男より大分年長としうえで、醜い器量の、しかもひどい斜視なんですが、その眼がまたとても色っぽく、身のこなしもどこやらあだめいて、垢ぬけがしています。男は色白の美麗きれいな丸い顔をしています。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
子供のにつく美麗きれいなおもちやが沢山に飾つて有升ありました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
三十がらみでちょっと美麗きれいな女であったが、どこか横柄に、武蔵へ向って、子供へものをいいつけるように
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はそうして多摩川縁たまがわべりの停留場におりて、そこの丘の上にある鉱泉旅館へ往った。嫩葉に包まれたその丘にはさつきが美麗きれいに咲いていたが、女の眼にはうつらなかった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いつもと違って、美麗きれいにおめかししているので、何処へといったら、品川の親類までといっていたが」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女はへやを出て往っちまう、で、便所へ往くふりをして、そっと広間へ往って、その皿鉢の中の残り肴を平げてしまい、中を鼻紙で美麗きれいに拭いて、出口の障子際へ持ち出し、それから用をして
幽霊の自筆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「でも、いつもお見かけした事のない、美麗きれいなお客様が働いているようじゃありませんか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この辺には、陶器やきものつくりのかま所々しょしょにあるので、そこで火入れをする日には絶えず煙が近所をいぶしている。けれど、その煙が去った後は、春先の空がよけいに美麗きれいに見られた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いた、きょうはな、おばば、お通姉さんは美麗きれいな帯をして、花祭りしていた」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『けれど、その女も美麗きれいな女だという噂だし、おめえも、美しい方だから』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城太郎は、改めて美麗きれいな人だなあ、と眼の前の女性に尊敬をもった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして出て行く父の後ろ姿を、美麗きれいで見送っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと美麗きれいなものを見出してしばし見恍みとれていたりした。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『右衛門七を。……成る程、右衛門七は、美麗きれいだからな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)