繁吹しぶき)” の例文
調べたら、窓の隙間から吹き込んでくる繁吹しぶきのためにやられたらしい。さう言へば、その辺一帯の畳まで矢張りジットリ湿つぽいのだ。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
開戸から慶造が躍出したのを、拓は縁に出て送ったが、繁吹しぶきを浴びて身を退いて座に戻った、かれは茫然として手をつかぬるのみ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
糠雨ぬかあめのようなこまかな繁吹しぶきが少女のほおらして、そのくせ澄んだ浅い色の空は、その日の上天気を約束していた。
朝のヨット (新字新仮名) / 山川方夫(著)
辻の庭から打水うちみづ繁吹しぶききりがたちのぼり、風情ふぜいくははるサン・ジァック、塔の姿が見榮みばえする……風のまにまに、ふはふはと、夏水仙の匂、土のにほひ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あめはしと/\とるのである。上流じやうりうあめは、うつくしきしづくゑがき、下流かりう繁吹しぶきつてる。しと/\とあめつてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
数日来風邪気かざけで悩んでゐた与里は、この朝も、春だといふのに重たい冬の外套をきて、嵐の繁吹しぶきを浴びながら出勤したのだが、無理が遂に祟つたらしい。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「雨かと思ったら、繁吹しぶきが風で飛んでくるのね。痛いわ」
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
けれども、雨漏あまもりにも旅馴たびなれた僧は、押黙って小止おやみを待とうと思ったが、ますます雫は繁くなって、掻巻の裾あたりは、びしょびしょ、刎上はねあがって繁吹しぶきが立ちそう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
繁吹しぶきを浴びて歩き出したら、突然鋭く二階の窓が開け放たれて——(もうあの女は二階へ駈け登つたのか!)眼玉を三角にした総江が食ひつきさうな顔を出した。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
山影やまかげながらさつ野分のわきして、芙蓉ふようむせなみ繁吹しぶきに、ちひさりんにじつ——あら、綺麗きれいだこと——それどころかい、馬鹿ばかへ——をとこむねたらひ引添ひきそひておよぐにこそ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)