緋牡丹ひぼたん)” の例文
真っ白な腕が、緋牡丹ひぼたんみたいに血しおを噴いている。——その白さとあかさに、小次郎はぶるると自分にまで、痛みとふるえを感じた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西明寺を志して来る途中、一処、道端の低いあぜに、一叢ひとむら緋牡丹ひぼたんが、薄曇る日に燃ゆるがごとく、二輪咲いて、枝のつぼみの、たわわなのを見た。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大輪の緋牡丹ひぼたんの崩るゝ如く散り去った彼女に取って、さぞ本望であっただろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
兄に抱き上げられた美保子の瑠璃るり色のエヴニングの胸は、緋牡丹ひぼたんを叩き付けたように血に染んで居りますが、幸に傷は浅かったらしく、しばらくするとようやく物を言える程度に人心地付きました。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
つぼみふくめる緋牡丹ひぼたんを。
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
緋牡丹ひぼたん
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
庭の泉石から室を吹きとおしてくる風に、彼のからだは緋牡丹ひぼたんの花が炎のように揺れた。彼は、具足のうえに、大僧正だいそうじょう緋衣ひいを着ていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片原の町から寺へ来る途中、田畝畷たんぼなわての道端に、お中食処ちゅうじきどころの看板が、屋根、ひさしぐるみ、朽倒れにつぶれていて、清い小流こながれの前に、思いがけない緋牡丹ひぼたん
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ポトと音せわしく糸をひいて垂れた鮮血は、絨毯じゅうたん模様のような緋牡丹ひぼたんゆかの足もとに大きく描いた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よつツのはしやはらかにむすんだなかから、大輪おほりん杜若かきつばたはなのぞくも風情ふぜいで、緋牡丹ひぼたんも、白百合しらゆりも、きつるいろきそうてうつる。……盛花もりばなかごらしい。いづれ病院びやうゐん見舞みまひしなであらう。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
美しいひとみが、一瞬、星のように、上を仰いでみひらいた刹那せつな、その真白い着物の胸からパッと緋牡丹ひぼたんのような血しおがほとばしった。少斎の薙刀なぎなたは、彼女の胸をつき通していたのである。
「いいえ、緋牡丹ひぼたん一片ひとひらでございましょう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)