素焼すやき)” の例文
旧字:素燒
素焼すやき土偶でくは粉になって、四方へ破片を飛ばしたのです。すると、その樹のうしろあたりから、あっと言って姿を見せた男女がある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに巨きな鉄のかんが、スフィンクスのように、こっちに向いて置いてあって、土間には沢山の大きな素焼すやきの壺が列んでいました。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
娘は例のごとく素焼すやきかめを頭の上に載せながら、四五人の部落の女たちと一しょに、ちょうど白椿しろつばきの下を去ろうとしていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
花壇の隅に伏せられた素焼すやきの植木鉢にねらいをつけたのでありましたが、轟然ごうぜんたる響きと共に鉢はに砕けます。
如何いかにも京都の宿屋らしいと、わたしは、屋根にある桃の鉢を両手にかかえて机へ置いて眺めた。いい苔の色をしていて、素焼すやきだけれど、鉢は備前焼のような土色をしていた。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そしてそんな物々ものものしい駄目だめをおしながらその女の話した薬というのは、素焼すやき土瓶どびんへ鼠の仔を捕って来て入れてそれを黒焼きにしたもので、それをいくらかずつかごく少ない分量を飲んでいると
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼は子供が母に強請せびって買ってもらった草花の鉢などを、無意味に縁側から下へ蹴飛けとばして見たりした。赤ちゃけた素焼すやきの鉢が彼の思い通りにがらがらとわれるのさえ彼には多少の満足になった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火消壺ひけしつぼ等種々土をつて造る所ゆゑ自然子供への玩具も作り、浅草地内、或は東両国、回向院前等に卸売見世おろしうりみせも数軒ありて、ほんの素焼すやき上薬うわぐすりをかけ、土鍋どなべ、しちりん、小さき食茶碗、小皿等を作り
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
それから手ごろな素焼すやきの瓶が一つ、この男の枕もとに置いてあるが、これも中に何がはいつてゐるのだか、わからない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
柴田、佐々さっさは同じ型のうぬぼれ男だ。永禄年代の武人型といえよう。同じ瓶割かめわりゅうでも、柴田は大ガメじゃが、佐々さっさひとまわり小さい素焼すやきのカメである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱柄しゆえ麈尾しゆびをふりふり、裸の男にたからうとするあぶや蠅を追つてゐたが、流石さすがに少しくたびれたと見えて、今では、例の素焼すやきの瓶の側へ来て、七面鳥のやうな恰好をしながら
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
また、その人体は、人間の化した死蝋しろうでも木乃伊みいらでもありません。生まれながら霊魂も肉体も持たない素焼すやき土偶でくで、きわめて原始的な工法で焼かれた赤土の埴輪はにわであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苔蒸こけむした井筒いづつあふれる水を素焼すやきかめへ落していたが、ほかの女たちはもう水をえたのか、皆甕を頭に載せて、しっきりなく飛びつばくらの中を、家々へ帰ろうとする所であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)