素封家そほうか)” の例文
壽阿彌は高貴の家へも囘向ゑかうに往き、素封家そほうかへも往つた。刀自の識つてゐた範圍では、飯田町あたりに此人をしやうずる家がことに多かつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるなつのこと、おとこは、あせをたらして、おもすみだわらを二つずつおって、やまをくだり、これをまちのある素封家そほうかくらへおさめました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
殿村は大方おおかたの事情を知っていた。大宅はれっきとした同村の素封家そほうか許婚いいなずけの娘を嫌って、N市に住む秘密の恋人と媾曳あいびきを続けているのだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「君だって家は好いんだろう。地方の素封家そほうかなら博士以上だろうけれど、相手が軍人だからね。余程宣伝しなければ駄目だろう」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
裸で、炎天に寝ころんでゐるのは、この打麦場の主人で、姓は劉、名は大成と云ふ、長山では、屈指の素封家そほうかの一人である。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
してこれははなはだ至当なる考えで、俗の世界には素封家そほうかはその人物の如何なるを問わず、単にかねがあるために一種の勢力を有するものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大人達のチャセゴは、軒々を一軒ごとに廻るのではなく、部落内の、または隣部落の地主とか素封家そほうかとかの歳祝としいわいの家を目がけて蝟集いしゅうするのであった。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
知事令夫人も、名だたる素封家そほうかの奥さんたちもその集会には列席した。そして三か年の月日は早月親佐を仙台には無くてはならぬ名物の一つにしてしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
県の議員なんかをやってる素封家そほうか子息むすこである従兄はそう言って、顔を赤くしている新夫婦に目を丸くした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母の鏡子は土地の素封家そほうかの娘だった。平凡な女だったが、このとき恋に破れていた。相手は同じ近郊の素封家の息子で、覇気のある青年だった。織田といった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それぞれ小倉と長崎の素封家そほうかへ引き取られて、これらの金は、ことごとく水の尾村役場の石橋家財産管理委員会へ納められたが、管理委員会は目下外務省に依頼して
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
森山という人は土地の素封家そほうかで、多くの田畑や山林を財産にして豊かに暮らしていた。
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
話は村の素封家そほうかの一人息子と、貧乏な綿打屋わたうちやの小町娘との恋物語に始まる。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
とにかくそういう抜目ぬけめのない男の事ですから学士になって或地方の女学校の教師になると間もなくその土地の素封家そほうか壻養子むこようしになって今日では私立の幼稚園と小学校を経営して大分評判がよい。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
真智子まちこである。本田の筋向いの前川という素封家そほうかの娘で、学校に通い出す頃から、恭一とは大の仲よしであった。学校も同級なため、二人は友達にはばかりながらも、よくつれ立って往復することがある。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
安都玉村の素封家そほうか輿水こしみず善重氏の宅で小休みする。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
前者は大抵重役か頭取の息子で、銀行か会社に勤めている。後者は普通地方素封家そほうか息女むすめで、女学校卒業後ピアノか何かのお稽古中である。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
桑原氏は駿河國するがのくに島田驛の素封家そほうかで、徳川幕府時代には東海道十三驛の取締を命ぜられ、兼て引替御用を勤めてゐた。引替御用とは爲換方かはせかたふのである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
万事がこの我儘な希望通り取計らわれたばかりでなく、宿も特に普通の旅館を避けて、町内の素封家そほうかN氏の別荘とかになっている閑静な住居すまいを周旋された。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吉田家は近郷一の素封家そほうかだった。そして、古風な恒例は何事も豪勢にやるのが習慣だった。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして、この素封家そほうかまえとおるたびに、いかめしいもんをにらんだのであります。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
F——学園の校長さんは地方の素封家そほうか出の文化人で、子供が多いところから一つ自分の手で思うような教育をしてみようと思い立ったのが始まりで、世間の子女たちもあずかる学校に発展さしたのですが
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
同僚河合君の家で偶然落ち合ったのが切っかけで交際が始まった。作州津山の素封家そほうかの娘で、目白の女子大学卒業生だ。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この麻利耶観音は、私の手にはいる以前、新潟県のある町の稲見いなみと云う素封家そほうかにあったのです。勿論骨董こっとうとしてあったのではなく、一家の繁栄を祈るべき宗門神しゅうもんじんとしてあったのですが。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
町の方へ嫁に行くことに話がまとまりかけていたお美代を、無理矢理に新田へ、土地の素封家そほうかだと言うことだけで、いろいろと口説き落とした自分であったことを、ぼんやり思い出した。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「僕のところが医学博士、大谷君のところが地方の素封家そほうか、菅野君のところが下町の商家、辰野君のところは会社の株主です。去年は子爵令嬢がありました」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
丁度その頃、叔父の親友の島崎画伯が市の素封家そほうかの肖像を描きに来て、立ち寄ってくれた。父とは郷里くにで家が近かったから、年は違うけれど、子供の時からの友達だ。
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
地方の有志や素封家そほうかには斯ういうのが多いから、官吏も田舎へ行くと息がつける。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
絹子さんのところは県下でなくて村下切っての素封家そほうかだ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「新郎芳夫君は東京市市会議員畑孫一郎氏の長男、慶応大学卒業の秀才にして同大学少壮教授、新婦絹子さんは静岡県浜松在の素封家そほうか大内長平氏の長女、浜松高等女学校卒業の才媛さいえんにして現代的美貌の持主なり」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)