かん)” の例文
でなければ、まだ五年も十年も、いや、あるいは死ぬまでも、一かんの竹にわびしい心を託して普化ふけの旅をつづけて終るつもりであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酸素問題は、酸素のボンベをもっていって、いよいよ苦しくなったら、せんをひらき、酸素をゴムかんで出し、それを口にくわえるとか鼻にあてるとかする。
成層圏飛行と私のメモ (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、そこにい合わせた産婆はたちまち細君の生殖器へ太い硝子ガラスかんを突きこみ、何か液体を注射しました。すると細君はほっとしたように太い息をもらしました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは是れ伊川いせんみずからこの説を造って禅学者をう、伊川が良心いずくにかる、と云い、かんを以て天をうかがうが如しとは夫子ふうしみずからうなりと云い、程夫子ていふうし崛強くっきょう自任じにんす、聖人の道を伝うる者
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私はそのまま遊廓ゆうかくの方へ歩いて行く。畳屋のかんさんに逢う。何処へ行くンだと云うから、煙草買いに行くンだと云うと、管さんは、寿司をおごろうと云って、屋台寿司に連れて行ってくれた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
えあがるのをみて、その上にふとんやいすをつみかさね、さいごにゴムかんをひっぱって、ガスをふきださせたんだ。ガスはすぐにえあがり、たちまち、ふとんもいすもめらめらとをふきだした。
この太いかんはなんでせう
お菊は、帯の間から、朱漆あかうるしの一かんを出して吹きだした。あしをわたる風が、ふなべりへ霜をおくように冷たかった。そして笛の穴に、彼女の息が白く見えた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのラッパには長いゴムかんがついていた。その男は頬をふくらませて吹いた。するとぷっぷくと音がでた。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「伊兵衛とやらいう笛吹きの名人、ちょうどここに、当家秘蔵の一かんがある、お前なら吹けそうじゃ、試してみい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんとか天彦あまひことかいう名笛めいてきのようだ。なんともいえない諧調かいちょう余韻よいんがある。ことに、笛の音は、きりのない月明げつめいの夜ほどがとおるものだ。ちょうど今夜もそんなばん——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その等しい人間的な内容や煩悩ぼんのうを超えて現れた表示のすがたであって、この薦僧こもそう沢庵たくあんとでも、一かんの竹をとおして、形なく心と心を触れてみれば、いずれも過去は同じように
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄葉落陽村舎、かん茶山の塾を訪れて、一本の杖に、歌を求めた。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)