立居たちい)” の例文
御小刀おこがたなの跡におう梅桜、花弁はなびら一片ひとひらかかせじと大事にして、昼は御恩賜おんめぐみかしらしかざせば我為わがための玉の冠、かりそめの立居たちいにもつけおちるをいと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
勝手が違うて窮屈な心地がいたし、立居たちいが固くなりますのに、まして見える眼を見えないように装うている辛さを、お察しなされて下さりませ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かの患者の室にこそこそ出入ではいりする人の気色けしきがしたが、いずれもおのれの活動する立居たちいを病人に遠慮するように、ひそやかにふるまっていたと思ったら
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子胎内にやどれば、母は言語立居たちいよりべものなどに至るまで万事心を用い、正しからぬ事なきようにすれば、生れる子形体正しく器量人にまさるとなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
古人こじんいわく「言者身之文也げんはみのぶんなり」と。日本のことわざにも「言葉は立居たちいをあらわす」というが、これはただしなや育ちを現すとの意でない、心持ちを知らすの意である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
端近な低い欄干、虹が消えそうな立居たちいの危さ、と見ると、清葉が落した色傘を拾っていたお千世が、小脇に取ったままあわただしく駆込んだのは、梯子はしごを一飛びに二階へ介添。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
去歳さるとしわが病伏やみふしける折日々にちにち看護にきたりしより追々に言葉もかけ給ふやうになりてひそかにその立居たちい振舞を見たまひけるが、癇癖かんぺき強く我儘なるわれにつかへて何事も意にさからはぬ心立こころだての殊勝なるに加へて
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
言葉が荒っぽく、眼の色が血走って立居たちいおだやかでない。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの感心しておあげ申していお姿、気高い立居たちい
宗助そうすけの気を機会ばあいも、年に幾度と勘定かんじょうができるくらい少なくなったから、宗助は役所の出入でいりに、御米はまた夫の留守の立居たちいに、等しく安心して時間を過す事ができたのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心の迷いか、済まん事だが、脊恰好せいかっこう立居たちいの容子が姉に肖然そっくり
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
波の立居たちいは見られますね。兎に角何か
私の立居たちいが自由になると、黒枠くろわくのついた摺物すりものが、時々私の机の上に載せられる。私は運命を苦笑する人のごとく、絹帽シルクハットなどをかぶって、葬式の供に立つ、くるまって斎場さいじょうけつける。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)