突当つきあたり)” の例文
突当つきあたりらしいが、横町を、その三人が曲りしなに、小春が行きすがりに、雛妓おしゃくささやいて「のちにえ。」と言って別れに、さて教授にそう言った。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路にぬぎ捨てある下駄を見ると年若の女ということが分る……僕は一切夢中で紅葉館こうようかんの方から山内へ下りると突当つきあたりにあるあの交番までけつけてその由を告げました……
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
向うの突当つきあたりまでちゃんと行って帰って来ます。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この口入宿の隣家となりは、小さな塩煎餅屋しおせんべいやで、合角あいかど花簪はなかんざしを内職にする表長屋との間に露地がある。そこを入ると突当つきあたりが黒板塀。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この花畠は——門を入ると一面の芝生、植込のない押開おっぴらいた突当つきあたりが玄関、その左の方が西洋づくりで、右の方がまわり廊下で、そこが前栽になっている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おい、いい加減に巫山戯ふざけておけ。これ知るまいと思うても、先刻さっきちゃんとにらんでおいた、ここを這入って右側の突当つきあたり部室へやの中に匿蔵かくまってあろうがな。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
界隈かいわいの者が呼んで紅梅屋敷という、二上屋の寮は、新築して実にその路地の突当つきあたりとおり長屋並ならびの屋敷越に遠くちらちらとあるくれないは、早や咲初さきそめたつぼみである。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突当つきあたり煉瓦れんがの私立学校とせなか合せになっている紋床もんどこの親方、名を紋三郎といって大の怠惰者なまけもの、若い女房かみさんがあり、嬰児あかんぼも出来たし、母親おふくろもあるのに、東西南北、その日その日
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨滴あまだれを払いながらその間の路地を入ると、突当つきあたりの二階が篠田の座敷、灯もいて、寝ない様子。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
墓原に来て突当つきあたりの部屋の前に、呼吸いきを殺していたりしが、他の者は皆立去りて、怪しと思う婦人おんなのみ居残りたる様子なれば、倒れたる墓石を押し寄せて、その上に乗りて伸び上り
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この突当つきあたり右側の室に、黒塗の板に胡粉ごふんで、「勝山夏」——札のそのかかれるを見よ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この突当つきあたりうちで聞いて来たんですが、紅梅屋敷とかいうのでしょう。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両方壁の突当つきあたりは、梯子壇はしごだんの上口、新しい欄干てすりが見えて、ほのかあかりがついている。此方こなたに水に光を帯びた冷い影の映るのは一面の姿見で、向い合って、流しがある。手桶ておけを、ぼた——ぼた——しずくの音。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)