穂先ほさき)” の例文
旧字:穗先
ピラリッ——朱柄あかえやり穂先ほさきがうごいて、やみのなかにねらいすまされた。と、その槍先から、ポーッとうす明るいがともった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七月の声は聞いても、此所ここは山深い箱根のことです。夜に入るとやり穂先ほさきのように冷い風が、どこからともなく流れてきます。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれは、もう、先生のつぎの言葉が、やり穂先ほさきのような鋭さで、自分の胸にせまっているのを感じ、かたく観念の眼をとじていたのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
場処ばしょは大抵は耕地の附近に、石を土台にしてまるい形に、稲の穂先ほさきを内側にして積み上げて置く、きわめて簡易且つ悠長ゆうちょうなる様式のものであるが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さびしい秋の夕方など、赤とんぼは、尾花おばな穂先ほさきにとまって、あのかあいいおじょうちゃんを思い出しています。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
どうかするとその花の穂先ほさきが私の帽子ぼうしとすれすれになる位にまで低くそれらの花をぷんぷんにおわせながら垂らしていたが、中にはまだその木立が私の背ぐらいしかなくって
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さびしい傾斜面けいしゃめんえた、くさ穂先ほさきをかすめて、ようやく、このあかるく、ひろ世界せかいたとんぼが、すいすいとままにんでいるのも、なんとなく、あたりがひっそりとしているので
ひとりのむなさきを田楽刺でんがくざしにつきぬくがはやいか、すばやく穂先ほさきをくり引いて、ふたたびつぎの相手をねらっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今でも年々あらたにする屋敷神やしきがみほこら、または山小屋や積み物の雨覆あまおおいなどは、たいていは藁の穂先ほさきのほうを外へ出すことにしている。あの秋の田の苅穂かりほのいほなども、多分はこれと同じかったろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
野槍の穂先ほさきを低目にかまえながら、まず二、三寸ずつジリジリと足の拇指おやゆびに土を噛ませてつめ寄って行きますと、突然
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
討入装束うちいりしょうぞくのままで、手には大身の槍をげていた。もっとも槍の穂先ほさきは、明方から白い晒布さらしで巻いて隠してはあるが——
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一声、錆槍さびやり穂先ほさきで、いきなり真上の天井板てんじょういたを突いた。とたんに、屋根裏をけものがかけまわるような、すさまじい音が、ドタドタドタひびきまわった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次郎の体をかぶッて投げた途端に、あの胆刺きもざしの鋭い穂先ほさきが顔面のどこかを機敏に突いたか掠ッたかしたものと思われますが、何しろ雲霧は目が開けない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ槍は穂先ほさきがりとなりやすいものである。顔を狙えばのどのあたりに、喉をねらえば胴のあたりに来るのが普通である。半助も、その的確には驚いたとみえ
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろめき蹌めき敵とおぼしき人影へ穂先ほさきを向けて、歩いていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)