めず)” の例文
またわからない言葉を何かしゃべらねばならぬのも億劫おっくうの種であるので、とうとう一ケ月以上も入浴をしない事はめずらしくはなかった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
加藤の家の老人としより夫婦の物堅い気楽そうな年越しの支度したくを見て、私は自分の心までがめずらしく正月らしい晴れやかな気持ちになった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
けれども、その顔は日本人にはめずらしいくらい細刻的な陰影に富んでいて、それが如実に彼女の内面的な深さを物語るように思われた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夕方からち出した雪が暖地にはめずらしくしんしんと降って、もう宵の口では無い今もまだぎわにはなりながらはらはらと降っている。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それからめずらしいとされている角錐かくすい状の結晶、鼓型つづみがたの結晶、それが数段になっている段々鼓型などの結晶が惜しもなく降って来るのである。
たった一人の時さえめずらしくなく、わざわざ改札に起きだして来るのも億劫なのであろう。したがって渡し損ねた切符が随分袂のなかに溜っている。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
新旧全書共に眠気醒しにならんでもないが、論語に至っては世にもめずらしき平々凡々、砂を噛むが如き書物である。
論語とバイブル (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
梁塵秘抄りょうじんひしょうそのほかの、めずらしい古謡こようの写し本をあまた取らせ、一ぱしその道の通のこととて、さまざま物語りにかしていると、そこへ、例の老女が現れて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そこで咄嗟とっさに文句をかえて、あなたの経済にかけての御手腕と、めずらしく秩序のととのった御領分については予々お噂を承わっていたから、ぜひお近附をねがって御挨拶がいたしたく
昨日や一昨日遊んでいたのは風邪かぜをひいたので工場へ勤められなかったのだとその男のために弁解して、何しろめずらしい働き者だと、後家の小母おばさんが話したということを力説りきせつするのだった。
いずれも情歌の作品には情緒纏綿てんめんという連中だったが、茶屋酒どころか、いかがわしい場所へ足を入れるものはほとんすくなかった。この点、庵主金升もその主義だった。正にめずらしい寄合よりあいといえる。
(まあ、いい男——休さんの朋輩には、めずらしい——)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
めずらしいディアボロ形の砂漏さろうなどが注目されたけれども、油時計や火繩時計のように中世西班牙イスパニアで跡を絶ったものには
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
是の如きことは甲にも乙にもかみにもしもにも互に有ることで、戦乱の世の月並でめずらしい事では無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを聴くと、法水はいったん自嘲めいた嘆息をしたが、続いて、彼にはめずらしい噪狂的な亢奮こうふんが現われた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「随分めずらしいい竿だな、そしてこんな具合のい軽い野布袋のぼていは見たことがない。」
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)