碧血へきけつ)” の例文
居間とも仕事場ともつかぬ、取っ付きの六畳、長火鉢の前に仰向きになった綾吉は、碧血へきけつの海の中に空を掴んでこと切れていたのです。
投げられた者は皆、脳骨のうこつをくだき、眼窩がんかは飛びだし、またたくうちに碧血へきけつの大地、惨として、二度と起き上がる者はなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当年碧血へきけつのあと、いまはただ野の草がさざなみのように風に倒れて、遠く浦塩ウラジオへ通ずる鉄路の果てが一線を引いて消える地平に、玩具おもちゃのような汽車が黒煙を吐いている。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
百年碧血へきけつうらみって化鳥けちょうの姿となって長くこの不吉な地を守るような心地がする。吹く風ににれの木がざわざわと動く。見ると枝の上にも烏がいる。しばらくするとまた一羽飛んでくる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さすがに顔をそむけました。便所寄りの戸袋の傍、一枚開けた雨戸の中には、碧血へきけつに染んだお咲の薄雲が、虚空をつかんだ形で死んでいるのです。
楠公一族が、忠烈な碧血へきけつをもって苔と咲かせた摂河泉せっかせんの石を、湊川みなとがわまで運ばせて、大きな碑を建てよう——という計画であるらしくうかがわれた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆川半之丞の案内で裏へ廻ると、狹い庭の植込の蔭に、さしも美しかつたお京は、紅絹もみの一と束のやうに、碧血へきけつに染んでこと切れて居るのです。
肉漿にくしょう飛び交い、碧血へきけつ草を染むる。悽愴せいそう比なき乱軍であったことを、証するものであるともいえよう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
碧血へきけつに染んだまゝ土間に轉がつて居り、その側に折重なるやうに倒れた藤六の死骸には、僅かに茣蓙ござがかけられて、多勢の眼から隱してあります。
二月から三月初めにかけて、高遠城の石垣は、攻守両軍の兵がながす碧血へきけつに塗られた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆川半之丞の案内で裏へ廻ると、狭い庭の植込みの蔭に、さしも美しかったお京は、紅絹もみの一と束のように、碧血へきけつに染んでこと切れているのです。
関羽のふるう青龍刀の向うところ、万丈の血けむりと、碧血へきけつの虹が走った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇田川小町と言われた浪人秋山佐仲の娘お喜美は、こうして花嫁衣裳を碧血へきけつに染めたまま、浅ましくも痛々しい姿で聟の家へ担ぎ込まれたのでした。
碧血へきけつ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇田川町小町と言はれた浪人秋山佐仲の娘お喜美は、斯うして花嫁衣袋を碧血へきけつに染めたまゝ、淺ましくも痛々しい姿で聟の家へ擔ぎ込まれたのでした。
お徳は後ろから頸筋くびすじを深々と切られて、半分開けたドブ板に手を掛けたまま、碧血へきけつの中に崩折くずおれていたのです。
死骸の側に投り出されたのは、使ひ古した植木鋏が一挺、碧血へきけつに染んで、この下手人を物話つて居さうです。
死骸の側にほうり出されたのは、使い古した植木鋏が一挺、碧血へきけつに染んで、この下手人を物語っていそうです。
八五郎から噂は聽いて居りましたが、碧血へきけつ大氾濫だいはんらんの中に横はつた若い嫁は、まことに非凡の美しさです。
それから物干臺に登つて見ましたが、碧血へきけつが新しい手摺から簾子張すのこばりを染めて、下のかはらに及んでをります。
剃刀は二梃ともよく使ひ込んだもので、背と背を合せて、元結もとゆひでキリキリと縛つてありますが、斑々はん/\たる碧血へきけつが、にかはのやうに附いて見るからに無氣味なものです。
其處はまだ昨夜のまゝの碧血へきけつまみれて、部屋の中程に、中間半次は自分の匕首——一度紛失ふんしつしたといふ——細身の一口を左乳の下に刺しつらぬき、兩手を疊に突いたまゝ
灯先あかりさきにヌツと出した顏は——身體は——、あごから襟へ腕へ——膝へかけて、飛び散る碧血へきけつを浴びて、白地の浴衣を着てゐるだけに、その凄まじさといふものはありません。
灯先あかりさきにヌッと出した顔は——身体は——、あごからえりへ腕へ——膝へかけて、飛び散る碧血へきけつを浴びて、白地の浴衣ゆかたを着ているだけに、そのすさまじさというものはありません。
尊い佛像の劍に碧血へきけつ斑々はん/\たるのは、あまりにも冒涜的で、結構な心持にはなれません。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
尊い仏像の剣に碧血へきけつ斑々はんはんたるのは、あまりにも冒涜ぼうとく的で、結構な心持にはなれません。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
中は惨憺さんたんたる碧血へきけつ、——検死が済んだばかりで、洗い清める暇もなかったのでしょう。
そこには荒筵の上に仰向あおむけになって、碧血へきけつに染んだ男の死骸が横たわっているのです。
中は慘憺たる碧血へきけつ、——檢死が濟んだばかりで、洗ひ清める暇も無かつたのでせう。
その半面が碧血へきけつを浴びて、喉笛にはまぎれもない喰ひ破つた猛獸の齒型。柘榴ざくろを叩き潰したやうにゑみ割れて、丸い胸のあたりまで蘇芳すはうにひたした凄まじさは、何にたとへやうもありません。
斑々はん/\たる碧血へきけつに染めて、隣の相模屋の若旦那榮三郎は、縁側の下に幾十とも知れぬ傷を負うて斬り殺され、多之助の弟で——今は此家の主人あるじの多見治は、居間の八疊に、相手の一と突きを
奸智かんちにだけけて、武藝の心得の怪しい石卷左陣を取つて押へると、丁度八五郎は、下水の蓋になつてゐる御影石みかげいしを起して、その下から三百兩の金包と、碧血へきけつ斑々はん/\たる脇差を搜し出したのでした。
が、石を積んでかしの厚板を並べた床は、東海坊の十本の指が碧血へきけつまみれる努力も空しく、ビクともする樣子はなく、四方に積んだ枯柴は、丈餘の焔を擧げて、つばさがあつても飛び越せさうもありません。
が、石を積んでかしの厚板を並べた床は、東海坊の十本の指が碧血へきけつまみれる努力も空しく、ビクともする様子はなく、四方に積んだ枯柴は、丈余の焔を挙げて、つばさがあっても飛び越せそうもありません。
石材の山を染めて、斑々はんはんたる碧血へきけつ、全く眼も当てられません。
もつたいなくも碧血へきけつに染んでゐることだつたのです。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
もったいなくも碧血へきけつに染んでいることだったのです。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どっと象牙の鍵盤をひたした碧血へきけつ——