矯正きょうせい)” の例文
いつも私の「お上品趣味」を冷やかしている夫として、私のつまらないハニカミ癖を矯正きょうせいしてやろうという意図なのか。………
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
去頃さるころより御老中ごろうじゅう水野越前守様みずのえちぜんのかみさま寛政かんせい御改革の御趣意をそのままに天下奢侈しゃしの悪弊を矯正きょうせいすべき有難き思召おぼしめしによりあまねく江戸町々へ御触おふれがあってから
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
農作の改善、副業の奨励しょうれい、作業の協同等を当時の村民に早く勧めていた。村の男女の風儀の矯正きょうせいには最も熱心であった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
堺氏は「およそ社会の中堅をもってみずから任じ、社会救済の原動力、社会矯正きょうせい規矩きく標準をもってみずから任じていた中流知識階級の人道主義者」
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
学校に愛想をつかした彼は、愛想をつかした社会状態を矯正きょうせいするには筆の力によらねばならぬと悟ったのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって臆病すなわち気の弱きを矯正きょうせいするには、盲者になったら、あるいはその目的を達するかも知れぬが、むろん我々が気弱きよわを矯正せんとするのは
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
せっかくこの即興的の出鱈目を、科学的に矯正きょうせいしてやろうとしているあとから、教えられた知識を土台にして、また空想の翼を伸ばすのだからやりきれません。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、それがおれを矯正きょうせいしただろうか? けっしてけっして! だって、おれはカラマゾフなんだもの。
それを解決したところで、今までのようにルーズな姉の生活と、無能なおいや、虚栄心の強い気儘きままな姪の性質を、根本的に矯正きょうせいしない以上、何をしでかすか判らなかった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またやしきには召人めしゅうどという女房の中の愛人が幾人もいるということですからね、そんな関係というものは、夫人になる人が嫉妬しっとを見せないで自然に矯正きょうせいさせる努力さえすれば
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
がしだいにそれを矯正きょうせいしていった。彼女は大きい活字のラテン語の祈祷書きとうしょのほかは何も読まなかった。彼女はラテン語は知らなかったが、その書物の意味はよく了解した。
左様そうえば何か私が緒方塾の塾長でしきりに威張いばって自然に塾のふう矯正きょうせいしたようにきこゆるけれども、又一方から見れば酒を飲むことでは随分塾風を荒らした事もあろうと思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いわゆる方言矯正きょうせいの事業はいかにも有害な殺伐さつばつなるありがた迷惑極まる事である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大原君のきずは大食にあるがその大食は何とか矯正きょうせいする事が出来そうなもの、大酒の人を禁酒させるのは困難だけれども大食の人を少食にするのは何とか工風くふうがありそうに思いますがどうでしょう
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼女の天性がそうである以上は、それを矯正きょうせいすることはできない。しかしこれらの歌曲リードは、正しい歌い方で歌われないとすれば全然歌われない方がいい、もう番組から引きぬいてしまうばかりだと。
後屈症は外科手術を施して位置矯正きょうせいをする事によって、内膜炎は内膜炎を抉掻けっそうする事によって、それが器械的の発病である限り全治の見込みはあるが
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その間際ですらかくのごとく頑固がんこであるなら、この頑固は本人にとってろうとして抜くべからざる病気に相違ない。病気なら容易に矯正きょうせいする事は出来まい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かくのごとき考えをもってその欠点を矯正きょうせいせんとつとめるものがあるかと思って、新たに工夫をめぐらすに至る人もあろうと思い、僕は本問題をひっさげたのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まだ尾のえぬ時にって来て別な師匠の鶯に附けて稽古させるのである尾が生えてからだと親の藪鶯の汚い声を覚えてしまうのでもはや矯正きょうせいすることが出来ない。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はもし社会が『万朝報よろずちょうほう』や『二六にろく新聞』によって矯正きょうせいされるならば、その矯正された社会は、矯正されざる社会よりも更に暗黒なものとなるのであろうという事を余りに心配している。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
悪いことは年のいった女房などに遠慮なく矯正きょうせいさせて使ってください。若い女房などが何を言ってもあなただけはいっしょになって笑うようなことをしないでお置きなさい。軽佻けいちょうに見えることだから
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
時と場合の許す限りそういう弊は矯正きょうせいしたい。「朝日」に長塚節氏の「土」を掲げるのも幾分か此主意である。
長塚節氏の小説「土」 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気弱きよわは生理的原因に由来することがあるゆえ、これを矯正きょうせいするには、生理的方法によらねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
自分の意識でしいて矯正きょうせいするために、やせた顔もさほどとは思われなくなり出すが、ふと鏡に向かった瞬間には、これが葉子葉子と人々の目をそばだたした自分かと思うほど醜かった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わたくしは酒を飲まないし、腥臭なまぐさいものが嫌いですから、どうでも構いませんが、もし現代の風俗を矯正きょうせいしようと思うなら、交通を不便にして明治時代のようにすればいいのだと思います。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あれでは神経質な繊弱な子供が出来てしまうから、あの習慣は矯正きょうせいしてほしい、そのためには先ず大人達がああ云うことをするのを止め、多少冒険でも蠅の止ったものぐらい食べて見せて
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もし反動がおそろしいの、騒動が大きくなるのと姑息こそくな事を云った日にはこの弊風へいふうはいつ矯正きょうせい出来るか知れません。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはどうして矯正きょうせいするかという問題はまずこのくらいにして、この講演の冒頭に述べた己のためとか人のためとかいう議論に立ち帰ってそのつづまりをつけてこの講演を結びたいと思います。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)