真顔まがお)” の例文
旧字:眞顏
己もお前を子供だと思わずに大人おとなにきいてもらうつもりではなしをするとそういってそれをいうときはいつもたいへん真顔まがおになって
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかも一個の素町人すちょうにんらしい。しばらくは嘲声ちょうせいがやまなかった。しかしそれが止むのを待って、やっと行司は真顔まがおで訊いたものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかつかと行懸ゆきかけた与吉は、これを聞くと、あまり自分の素気そっけなかったのに気がついたか、小戻こもどりして真顔まがおで、眼を一ツしばだたいて
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船長は片目をつむって、唇をゆがめて冷笑した。しかし一等運転手は真顔まがおになって、真剣に腰をかがめながら、船長室内のそこ、ここをのぞきまわり初めた。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
キザミ煙草をおいしそうに吸っていたマンは、そういって笑ったが、ふっと、いたずらっぽい真顔まがおになって
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
りどころのない駄法螺だぼらなので、それをいかにももっともらしく、真顔まがおを作って話すというのは、どうやらお品に弱点を握られ、今にもそこへさわられそうなのが
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「その代り冬休というやつが直ぐ前に控えていますからな。左右に火鉢、うまい茶を飲みながら打つたのしみは又別だ」といいつつ老人は懐中ふところから新聞を一枚出して、急に真顔まがおになり
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まんざら、おひゃらかすとも見えないように真顔まがおになって、先生をめ立てたから堪りません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝倉先生はそう言って笑ったが、すぐ真顔まがおになり、床の間の「平常心」の軸にちょっと眼をやった。そして、はしを動かしながら、しばらく何か考えるようなふうだったが
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「おい、君は『しろ同人どうじんの音楽会の切符を売りつけられたか。」と真顔まがおになって問いかけた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だのにあなたはこんな人生が、つかのまの満足のために危険をおかしてはならないほど大事なものだと、真顔まがおでわたしに説教なさるおつもりね。——わたし、もう幸福なんかどうでもいいの
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
町人の腹ッぷくれなんぞ何だという位のことで贋物を真顔まがおで視せたのであるが、元来が人の悪い人でも何でもなく温厚の人なので、欺いたようになったまま済ませて置くことは出来ぬと思った。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と源三郎が、いつになくつつましやかな真顔まがおで、ツと身を避けると……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どうだ政どん」と壮平老人はこのとき真顔まがおになって云った。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真顔まがおになっていった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
真顔まがおになって、何も心配することはないよ。この大阪にはもとよりいず……ああ今頃は、どこを流して流れているかも分らない……」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与吉の真面目まじめなのに釣込つりこまれて、笑うことの出来なかったお品は、到頭とうとう骨のある豆腐の注文を笑わずに聞き済ました、そして真顔まがおたずねた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして元文の年号のある方を、あるいは静御前のではないかと思います。と、真顔まがおで云うのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
川島は真顔まがおにたしなめた。けれども小栗はまっ赤になりながら、少しもひるまずに云い返した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、お祖母さんは、冗談じょうだんのように言って笑ったが、すぐまた真顔まがおになって
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
真顔まがおになって、こんなことを言い出しましたから、お角もおかしくなって
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
急に、真顔まがおになって、金五郎がいった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「ちッ、真顔まがおで聞いておくんなさいよ。親切気でお止めしているんですぜ。命がらないわけじゃありますまい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道庵も少し真顔まがおに考え込んでいたが、やがて声の調子を一本上げて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と朝倉先生は愉快ゆかいそうに笑ったが、すぐ真顔まがおになり
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
自分の願いは、早く針を売り上げて、故郷の中村へ帰り、一刻も早く、母親の顔を見たいことしかない——というような意味を、より以上真顔まがおになって述べた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一生の頼み? 真顔まがおで言うだけに気味が悪い」
次郎は、しかし、すぐ真顔まがおになり
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)