盲目もうもく)” の例文
このとき、盲目もうもく母親ははおやきながら、十五、六のむすめが、雪道ゆきみちあるいていきました。母親ははおや三味線しゃみせんかかえていました。旅芸人たびげいにんです。
雪消え近く (新字新仮名) / 小川未明(著)
この時の春琴女はすでに両眼のめいを失ってから二十有余年の後であるけれども盲目もうもくというよりは眼をつぶっているという風に見える。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と云いながら古竹の杖を持って無闇に振廻しますが、盲目もうもくでこそあれ真影流の奥儀おくぎきわめた腕前の小三郎、寄り附かんように振廻す。
家をまもる陰鬱な虫の盲目もうもくの希いが、天皇は自分であるということを、てんから不動盤石ばんじゃくに、疑らせもしなかったのだ、と。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ったばかりの天井てんじょうにふんの砂子すなごらしたり、馬の眼瞼がんけんをなめただらして盲目もうもくにする厄介やっかいものとも見られていた。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その後カションはいかなる病気びょうきかかりけん、盲目もうもくとなりたりしを見てこれ等の内情を知れる人々は、因果いんが覿面てきめん気味きみなりとひそかかたり合いしという。
「君のような都会人は、ああ云う種類の美に盲目もうもくだからいかん。」と、妙な所へ攻撃の火の手を上げ始めた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「深夜しかもこの深岳しんがくだ、弦之丞のやつは山にこもって、血に狂したやぶれかぶれ、人と見たら盲目もうもくに斬りつけるだろう。とても、吾々にもあんな勇気はないよ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうこうなると、綾衣も盲目もうもくになった。末のことなどを見透している余裕ゆとりはなかった。その日送りに面白い逢う瀬を重ねているのが、若い二人の楽しい恋のいのちであった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何だか勇ましいようないたましいような一種の気分が、盲目もうもくの景清の強い言葉遣ことばづかいから、また遥々はるばる父を尋ねに日向ひゅうがまでくだる娘の態度から、涙に化して自分の眼を輝かせた場合が、一二度あった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪の場合のように目標が茫漠ぼうばくとしていて、手探りの盲目もうもく飛行の中で、一点の雲の切れ目をとらえて、機を逸せずその方へ突入とつにゅうして行くようなことをくり返して行く仕事では、小出しに満を持しては
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
とっさま誠に残念でございます、小三郎薄命にしてかゝる眼病に相成り、御尊父の妄執を晴らす事もお刀の詮議をいたすことも此の盲目もうもくでは思いもよらず、又大野惣兵衞に出会しゅっかいいたす時あるとも
ある蒸し暑いあまもよいの、舞台監督のT君は、帝劇ていげき露台バルコニーたたずみながら、炭酸水たんさんすいのコップを片手に詩人のダンチェンコと話していた。あの亜麻色あまいろの髪の毛をした盲目もうもく詩人のダンチェンコとである。
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
盲目もうもく一路
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)