目近まぢか)” の例文
悚然ぞっとして、向直むきなおると、突当つきあたりが、樹の枝からこずえの葉へからんだような石段で、上に、かやぶきの堂の屋根が、目近まぢか一朶いちだの雲かと見える。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北のかた目近まぢかに大武の岬をながめ、前面、三浦三崎と対し、内湾うちうみと、外湾そとうみとの暮れゆく姿を等分にながめながら、有らん限りの声を出して歌いました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
りくはうると、いつしかふねみなと目近まぢかすゝんで、桑港さうかう町々まち/\はついはなさきえる。我等われらとまるべきフェアモント・ホテルはたかをかうへつてる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
僕は又遠い過去から目近まぢかい現代へすべり落ちた。そこへ幸いにも来合せたのは或先輩の彫刻家だった。彼は不相変あいかわらず天鵞絨びろうどの服を着、短い山羊髯やぎひげらせていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いよいよいけなくなったことは、冬がいまや目近まぢかにせまってきたことであった。わたしたちは目も見えないような雨とみぞれの中をみじめに歩き回らなければならなかった。
窓のつい眼のさきにある山の姿が、淡墨うすずみいたように、水霧につつまれて、目近まぢかの雑木の小枝や、崖の草の葉などに漂うている雲が、しぶきのような水滴を滴垂したたらしていたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二十三歳の豊かな肉体が、危ふく純潔さを支へて、目近まぢかな夢を追つてゐるのである。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
僕は又遠い過去から目近まぢかい現代へすべり落ちた。そこへ幸ひにも来合せたのは或先輩の彫刻家だつた。彼は不相変天鵞絨びろうどの服を着、短い山羊髯やぎひげらせてゐた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
烏はかもめが浮いたよう、遠近おちこちの森は晴れた島、目近まぢかき雷神の一本の大栂おおとがの、旗のごとく、つるぎのごとくそびえたのは、巨船天を摩す柱に似て、屋根の浪の風なきに、泡のしぶきか、白い小菊が
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目近まぢかに、白い山々の峯が光つてゐます。その中腹から緑の牧場が、ゆるやかな起伏を見せて、谷へ伸び、そこで、はじめて、灰色にかげつた小さな部落のひとかたまりを浮き出させるのです。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)