目蒐めが)” の例文
しかも血迷った英国士官は本国の威力を示すためか、いきなり馬上から指揮刀を挙げて、この大群集を目蒐めがけて小銃の乱射をさせました。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが阿Qは一向平気であたりを見廻し、たちまち右手をあげて、折柄おりからくびを延して聴き惚れている王鬍のぼんのくぼを目蒐めがけて、打ちおろした。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
同時に、吉田機関手がこれまでの自分にしてくれたすべてのことが、洪水のように彼女の胸を目蒐めがけて押し寄せて来た。殊にも昨夜のことであった。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
群衆はそれを取囲み始めて居た。と急に紳士は、眼の前にある巡査派出所目蒐めがけて飛んで行った。刑事も車掌も走った。群衆も続いて駈け出した。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
しかもその爆弾は今まさに南亜米利加アメリカから、巴里パリーの空目蒐めがけて飛翔の準備中であるという警鐘は乱打されているのだ。
親方らしいのが、棒をふるって飛び出すと、それに励まされて丸くなった五六人が、兵馬を目蒐めがけて突貫して来ました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
で、大抵はひとりでゐる。それを目蒐めがけて朝鮮の女が酒を売りに来るといふ話である。しかしそれは私は知らない。
山のホテル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
子供の時父の用箪笥ようだんすから六連發のピストルを持出し、妹を目蒐めがけて撃つぞと言つて筒口を向け引金に指をかけた時
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
まはりしてあいちやんがほかはうあらはれたときに、いぬころはモ一えだ目蒐めがけてびかゝり、それにつかまらうとしてあまいそいだめ、あやまつて筋斗返とんぼがへりをちました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、その狭い口から、物の真黒な塊りがドッと廊下へ吐出され、崩れてばらばらの子供になり、我勝われがちに玄関脇の昇降口を目蒐めがけて駈出しながら、口々に何だかわめく。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女達は口々にはやしたてて笑った。俺は一足とびに寝室のベットを目蒐めがけて転んだ。……
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
元よりこうおどされても、それに悸毛おぞけを震う様な私どもではございません。甥と私とはこれを聞くと、まるで綱を放れた牛のように、両方からあの沙門を目蒐めがけて斬ってかかりました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
訶和郎は石塊を抱き上げると、起き上ろうとする荒甲の頭を目蒐めがけて投げつけた。荒甲の田虫は眼球と一緒に飛び散った。そうして、芒の茎にたかると、濡れた鶏頭とさかのようにひらひらとゆらめいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は立聴きしようと思って趙司晨のそばまでゆくと、趙太爺は大きな竹の棒を手に持って彼を目蒐めがけて跳び出して来た。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そこへ太子は階段を上って帰って来られたが、姉上に対する駐在官の無礼を見られると、いきなり手にせられた乗馬用の革鞭かわむちを奮って駐在官目蒐めがけて打ち降ろされた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼は机の上の燐寸マッチの箱を子供目蒐めがけて投げつけた。子供も負けん氣になつて自分目蒐けて投げ返した。彼は又投げた。子供も又やり返すと、今度は素早く背を向けて駈け出した。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
青年は老紳士を目蒐めがけて走って行った。署長と三人の刑事とがそれに続いて走った。
俺の魂は落日の曠野を目蒐めがけて飛躍した。どこかで豚の啼き声がした。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
どたりと引き裂いた黒パンの塊を、彼の頭を目蒐めがけて投げ出した。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)