つがい)” の例文
憮然ぶぜんとして腕を組んだ栄三郎の前に、つがいを破られて一つ残った坤竜丸が孤愁こしゅうかこつもののごとく置かれてあるのを見すえている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正介は「坊ちゃまそら敵だッ」と仏壇の陶器せとものの香炉を打ち付ける、灰が浪江の両眼に入る、ここぞと正介は「樫の木の心張棒で滅多打ちに腰のつがい
一処ひとところ、大池があって、朱塗の船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろの派手な女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るように目に留った。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御承知の通り、ノアは彼の妻、子、子の妻と共に方舟に入ったばかりでなく、鳥獣昆虫その他すべての「生物、総て肉なる者を」一つがいずつ連れ込んだ。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
ついこの一月までは、雌雄しゆうつがいでいたけれど、心臓フィラリアを患って今では雄一匹になってしまったのだと、仲好しらしい妹娘の方が残念そうにそういうのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
姫路のお城の中にある松の木に鶴が一つがい巣を作っていた。よく見ると一羽の鶴が病気になってちっとも動かない。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夏じゅう、六つがいほどの小鳥を入れた籠は、その曲った方の板敷に置かれて居た。夫の書斎から差すほのかな灯かげの闇で、夜おそく、かさかさと巣の中で身じろぐ音などが聞える。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
荷足の仙太は提灯の燃上る火影に熟々つく/″\と侍の姿を見済まして板子を取直し、五人力の力をきわめて振りかぶり、怪しい侍の腰のつがいねらい、車骨くるまぼね打砕うちくだこうという精神でブーンと打込みますると
のみならず、やがて持参の一トつがいの鶉籠を、忠秋の前へさしおいて
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一処ひとところ大池おおいけがあつて、朱塗しゅぬりの船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろ派手はでな女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るやうに目にとまつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ついにおさまっていれば何事もないが、つがいを離れたが最後、絶えず人血を欲してやまないのが奇刃きじん乾雲である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一目見、片方のは花と判ったがもう一方の大きな四角は何だか判らず、二階であけて見たら、桜文鳥のつがいが出た。思いがけず、鳥とは思いがけず! 近所から一寸した料理をとり夕飯をおそくたべた。
それが、お前さん、火事騒ぎに散らかったんで——驚いたのは、中に交って、鴛鴦おしどりが二羽……つがいかね。……
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何はともあれ、これで手にある坤竜こんりゅうつがいに返り、雲竜ところをひとつにしたと思ったのもつかのま、さっきまで確かに行燈の下にあった脇差坤竜丸が姿を消しているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「疲労はよかったな。園絵そのえ殿とつがいの蝶では、如何な神尾氏も疲労されるであろうよ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やがて蝶がつがいになった。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「疲労?」と、叫ぶように頓狂とんきょうな声を揚げて乗り出したのは、この自分だった。「疲労か、疲労はよかったな。いかさま、園絵どのとつがいの蝶では、如何いかな神尾氏も疲労されるであろうよ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)