物数奇ものずき)” の例文
旧字:物數奇
「人に驚かしてもらえばしゃっくりが止るそうだが、何も平気で居て牛肉がえるのに好んで喫驚びっくりしたいというのも物数奇ものずきだねハハハハ」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
物数奇ものずきな座敷へ通され、薄茶うすちゃを出されたり、酒を出されたり、江戸の留守居とも思われないような美しい女まで出されて取り持たれると
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だからさ。衣食に不自由のない人が、云わば、物数奇ものずきにやる働らきでなくっちゃ、真面目な仕事は出来るものじゃないんだよ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何人だれ物数奇ものずきに落ちたくて川へ落ちるもんか。落ちたのは如何にも乃公の過失あやまちだ。しかし其過失の原因もとは全く姉さん達にある。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時流に染まず世間にびざる処、例の物数奇ものずき連中や死に歌よみの公卿くげたちととても同日には論じがたく、人間として立派な見識のある人間ならでは
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
七郎丸からもらった新しい祝着マイワイに、貴女の国にては近頃物数奇ものずき者間にてわれらが国の労働着がハッピイ・コートとやら称ばれて用いられている由なれど
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
葉子はしとやかに人々の物数奇ものずきらしい視線を受け流しながら、ぐるっと食卓を回って自分の席まで行くと、田川博士はかせはぬすむように夫人の顔をちょっとうかがっておいて
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は女から自分が探偵されていると云う疑念を逆に投げ返して、こっちから女の行動を今しばらく注意して見ようという物数奇ものずきを起した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実朝の歌はただ器用というのではなく力量あり見識あり威勢いせいあり、時流に染まず世間にびざるところ例の物数奇ものずき連中や死に歌よみの公卿くげ達ととても同日には論じがたく
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この昇降器は普通のように、家の下層から上層に通じているのとは違って、地面から岩山のいただきまで物数奇ものずきな人間を引き上げる仕掛であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何しろ父がその男に頼まれて、快よく訪問を引受けたのも、多分持って生れた物数奇ものずきから来たのだろうと自分は解釈している。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西洋の物数奇ものずきがしきりに日本の美術を云々うんぬんする。しかしこれは千人のうちの一人で、あくまでも物数奇の説だと心得て聞かなければならない。
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
があれは生活上別段必要のある場所にある訳でもなければまたそれほど大切な器械でもない、まあ物数奇ものずきである。ただ上ったり下ったりするだけである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その鶉の朝飯をこしらえるからと云って、特に招待するんだから、佐藤は物数奇ものずきに違いない。そうして、好いかほかに何にもない、鶉ばかりだよと念を押した。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最後に、なぜ私がここにこうやって出て来て、しきりに口を動かしているかと云えば、これは酔狂すいきょう物数奇ものずきで飛出して来たと思われては少し迷惑であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
謹んで紳士の模範を以て目せらるる英国人に告ぐ。余は物数奇ものずきなる酔興にて倫敦まで踏み出したるにあらず。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
野々宮君の様な新式な学者が、物数奇ものずきにこんなうちりて、封建時代の孟宗藪を見て暮らすのと同格である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この不決断をのがれなければという口実のもとに、彼はあんに自分の物数奇ものずきびようとした。そうして自分の未来を売卜者うらないしゃ八卦はっけに訴えて判断して見る気になった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええちと物数奇ものずき過ぎますね、蒙古刀は」と答えた。「ところがおととの野郎そんな玩具おもちゃを持って来ては、兄貴を籠絡ろうらくするつもりだから困りものじゃありませんか」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よしんば自分でいくら身を落すつもりでかかっても、まさか親の敵討かたきうちじゃなしね、そう真剣に自分の位地いちてて漂浪ひょうろうするほどの物数奇ものずきも今の世にはありませんからね。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そりゃ物数奇ものずきと云うもんでさあ。せっかく来たから是非やるったって、何もうちを出る時から坑夫になると思いつめた訳でもないんでしょう。云わば一時いちじの出来心なんだからね。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
名前を聞いてさえ、開けた所とは思えない。さると人とが半々に住んでるような気がする。いかに聖人のうらなり君だって、好んで猿の相手になりたくもないだろうに、何という物数奇ものずきだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無論贋物にせものじゃない、正直正銘しょうじきしょうめい、うそいつわりのない上等品ばかり並べておく。上等品だからみんな高価にきまってる。そこへ物数奇ものずきな御客さんが来て、この元信もとのぶの幅はいくらだねと聞く。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうも処世上の便宜からそう無頓着むとんじゃくでいにくくなる場合があるのと、一つは物数奇ものずきにせよ問題の要点だけは胸に畳み込んでおく方が心丈夫なので、とかく最後の判断のみを要求したがります。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが戦争がすんで往復の必要がなくなったので、せっかくできた山路に手を入れる機会を失ったため、我々ごとき物数奇ものずきは、かように零落れいらくした馬車をさえ、時々復活させる始末になるのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あら、あの方が捧げたの、よっぽど物数奇ものずきね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)