焼鏝やきごて)” の例文
焼鏝やきごてを当てられたように感じて引っくり返ったというだけの事、誰が斬って、どうして逃げたかまるっきり見当も付かない始末です。
其れが焼鏝やきごてを当てる様になり、乃至ないし「ヌマ」と云ふ曲つたピンに巻いてちゞらす様になると、癖を附けぬ毛の三倍程も毛はふくれるが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それが、金魚を見ることは、彼の小さな世界へ焼鏝やきごてをさし入れるものであらねばならない。彼は金魚を見ることを恐れた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
ぐらっと、内匠頭は、こめかみに焼鏝やきごてを当てたようなめまいを感じた。口腔くちの渇いているせいか、声が、かすれていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭の天辺てっぺんの薄くなった亭主が、あか延片のべぎれを型へ入れて巻いている。すると、櫛巻の女房が小さい焼鏝やきごてを焼いて、管の合せ目へ、ジューとハンダを流す。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
それを型から出して焼鏝やきごてを当てるのですがクリームでなければ焦げたあとが付きません。クリームは焦げやすいものですから焼鏝で好き自由な模様を描けるのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
黒光りする用箪笥ようだんすから幾束かの紙幣を取り出して、一枚一枚丁寧に焼鏝やきごてをあててしわを延ばして行くのであった。そして私にも金をかく愛しなはれと教訓してくれた。
人種がちがうものだとばっかり思っていたが、あにはからんや、僕の額にもはっきり落第生の焼鏝やきごてが押されてしまった。新入しんいりでござんす、よろしくお願い致します。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
押しつけられた焼鏝やきごての烙印のようなものであるといっているあたり、彼の前にはまだパイオニアの行動のもつイメージ、テキサスの西部の高い草の香りが残っている。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
椿つばき紅梅こうばいの花に降る春の雪はまた永遠に友禅模様の染色そめいろの如く絢爛けんらんたるべし。婦女の頭髪は焼鏝やきごてをもて殊更ことさらちぢらさざる限り、永遠に水櫛みずくしびんの美しさを誇るに適すべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこで花のように美しいかおへ、無惨にも我れと焼鏝やきごてを当てて焼いてしまいました。その強い決心にめでて禅師も、ついに姫の尼となる望みを許したということであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
独り居室にいるときでも、夜、牀上しょうじょうに横になったときでも、ふとこの屈辱の思いがきざしてくると、たちまちカーッと、焼鏝やきごてをあてられるような熱いうずくものが全身をけめぐる。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そして頸筋へ焼鏝やきごてでも当てられたようにひりひり痛んだ。弾丸がかすったのである。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二百人の警衛づきで長崎へ引立てられ、水責の後、梯子責で失神、三日目に焼鏝やきごて
と、次郎は、火鉢にさしてあった焼鏝やきごてを灰の中でぐるぐるまわしながら
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
(腹と背中へ焼鏝やきごてをおっつける療法)
つやなき髪に、焼鏝やきごて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
椿つばき紅梅こうばいの花に降る春の雪はまた永遠に友禅模様の染色そめいろの如く絢爛けんらんたるべし。婦女の頭髪は焼鏝やきごてをもて殊更ことさらちぢらさざる限り、永遠に水櫛みずくしびんの美しさを誇るに適すべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)