焚付たきつ)” の例文
少し眠足ねたりないが、無理に起きて下坐舗へ降りてみれば、只お鍋が睡むそうな顔をしてかまの下を焚付たきつけているばかり。誰も起きていない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
棺はおけを用いず、大抵たいてい箱形はこがたなり。さて棺のまわりに糠粃ぬかを盛りたる俵六つ或は八つをたて立掛たてかけ、火を焚付たきつく。俵の数はしかばねの大小によりことなるなり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
太吉は炉辺ろばたに坐って、青竹を切って笛を造りながら、杉の葉や枯れた小枝を手折たおってはこれに火を焚付たきつけて、湯を沸して町から母の帰るのを待っていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
主人が不取締だと下女が檐端のきばかや引抽ひきぬいて焚付たきつけにする、などと下女がヤリテンボウな事をする小さな事にまで気の届いている、すさまじい聡明そうめいな先生だった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此の日芸者小兼は早く起きて白金の清正公様せいしょうこうさまへおまいりきました。一体芸者しゅは朝寝ですが、其の日は心がけて早く起き、まだ下女が焚付たきつけて居て御飯ごぜんも出来ないくらいの所へ
河の上にあって、近所の建物からかなり遠く離れていて、それでどうしてこんなにひどく焼かれたか不思議なようである。これはもちろん、避難者の荷物が豊富な焚付たきつけを供給したためである。
鑢屑 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今度は乃公おれが勤めるんだなんて、阿父さんが暗いうちから起きておかまの下を焚付たきつけて下さるんです……習慣に成っちゃって、どうしても寝ていられないんですッて……阿母おっかさんが起出す時分には
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明け釜元かまもと焚付たきつけ扨々昨夜ゆうべは危き事かなと一人いひつゝ吉之助初瀬留をもおこさんとしけるをり昨夜さくや喜八をとらへたる山田軍平は朝湯あさゆの歸り掛け煙草たばこかはんと喜八のみせ立寄たちよりしが未だおもてしまり居る故煙草たばこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此方こっちへ参れば倉富くらとみへ出る、鎌倉道の曲り角に井桁屋米藏と云う饅頭屋があって蒸籠せいろうを積み上げて店へ邪魔になる程置き並べて、亭主はしきりに土竈へっつい焚付たきつけて居る、女房は襷掛たすきがけ