炬火きょか)” の例文
大天狗、小天狗、無数の天狗がみな火となって、黒風にけまわり、その火が落ちて、火神の御社が、忽ちまた団々たる炬火きょかとなる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らの手から手へと炬火きょかを受け継がせる。彼らは相次いで、闇黒あんこくにたいする神聖な戦いをなしてゆく。彼らの民衆の精神に引きずられる。
そしてまた、そのころは、自由劇場が、小山内おさないさんによって提唱され、劇運動の炬火きょかを押出した時でもあった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かの二谷を呑んだ峯の上を、見るも大なる炬火きょか廿にじゅうばかり、烈々としてつらなり行くを仰いで、おなじ大暴風雨に処する村人の一行と知りながら、かかればこそ
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雲水の僧は身の丈六尺有余、筋骨きんこつ隆々として、手足は古木のようであった。両眼は炬火きょかの如くに燃え、両頬は岩塊の如く、鼻孔びこうは風を吹き、口は荒縄をり合せたようであった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一方には彼等を網羅してこれを諭し、その古来徹骨てっこつもうひらきて我主義に同化せしめんとの本願なれば、四面暗黒の世の中にひとり文明の炬火きょかを点じて方向を示し、百難をおかしてただ前進するのみ。
もしも、あなたがこれから十年二十年とこのにくさげな世のなかにどうにかして炬火きょかきどりで生きとおして、それから、もいちど忘れずに私をお呼びくだされたなら、私、どんなにうれしいでしょう。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
駝象の大行列中に雄猴をつないで輿こしに載せ、頭に冠を戴かせ、輿側に人ありてこれをあおぎ、炬火きょか晶燈見る人の眼をくらませ、花火を掲げ、嬋娟せんけんたる妓女インドにありたけの音曲を尽し、舞踊、楽歌、放飲
「同志よ、暗黒の中に、炬火きょかをかかげたる玉井金五郎の後に続け」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ママべくして燃えざりし炬火きょか
新世紀への伴奏 (新字新仮名) / 今野大力(著)
そのうるしのようなひろい闇をって、鷹取峠たかとりとうげから千種川をこえて城下へ流れて来る一列の炬火きょかがある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸術のうちにはめ込まれた利己心は、雲雀ひばりどもにたいする鏡であり、弱き者どもをまどわす炬火きょかである。ジャックリーヌの周囲でも、多くの婦人が彼にとらえられたのだった。
この人たちの勇気と決心は、婦人解放運動の炬火きょかとなったのだ。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
和田呂宋兵衛わだるそんべえがさかよせをしてきたか、膳所ぜぜの城にある徳川方とくがわがたの武士がきたかと、身がまえをしていると、やがて、炬火きょか先駆せんくとなって、こまをとばしてきた一の武者。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勇壮なる争闘の神——万軍の主たる神——が君臨している圏内から外に出で、戦争地域から外に出でて、彼は自分の足下に、燃ゆる荊の炬火きょかが暗夜のうちに消えてゆくのをながめた。
主従三人、愁然しゅうぜんと手をつかねて湖水のやみを見つめていると、瀬田川せたがわの川上、——はるか彼方あなた唐橋からはしの上から、炬火きょかをつらねた一列の人数が、まッしぐらにそこへいそいできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パリーの逸楽的な闇夜やみよの中にあって、彼の心のうちには大なる炎が上がっていた。彼はいかなる信仰にも縛られていないとみずから信じていたが、実は全身が信仰の炬火きょかにすぎなかった。
すでに林の夜はく、あいての姿すがたもかすかにしか見えないやみ! そこに、一炬火きょかまわっている! いな、廻っているのは独楽なのだが、あたかも、太陽のコロナのごとく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦国の焦土しょうどから、徳川覇府の建設へと、政治的な幾変転が繰り返される間にも、文化の炬火きょかは、煌々こうこうと絶ゆることなく燃やし続けられたが、その文化けんの最も輝かしい光芒は、幽斎細川藤孝ふじたか
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「長曾我部元親なるものも、風の中にほうっておけば、炬火きょかになる質がある」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんらんとそのなかに胸中の炬火きょかが燃えているのを劉備は認めた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)