瀟洒せうしや)” の例文
女の大学生がまげを包んだリボンと同じ色の長い薄手の外套を着て、瀟洒せうしやとした所に素直な気取きどりを見せたのは一寸ちよつと心憎い様に思はれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
直ぐ瀟洒せうしやな露路庭を控へた部屋に案内された。良家の若い奥様といつた風の、おとなしやかな女が、お香の匂つた煙草盆やしぼりなどを運んで来た。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私の幻想のなかには一軒の瀟洒せうしやな印章屋の影像が浮ぶのだつた。東京の町のどこかで、さうした、小ざつぱりとした印房を私はかつて見たことがあつたやうだ。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
鈴木三重吉すずきみへきち久保田万太郎くぼたまんたらうの愛読者なれども、近頃は余り読まざるべし。風采瀟洒せうしやたるにもかかはらず、存外ぞんぐわい喧嘩けんくわには負けぬ所あり。支那にわたか何か植ゑてゐるよし。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
橋から正面につけられた丁度その塀の真中頃を刳り抜いた様な瀟洒せうしやな入口の工合などが、あまりに渋い好みに凝り過ぎた為に、見様によつては、何となく陰気で
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
窓々のどつしりした絢爛けんらんな模様の緞子どんすのカーテンが明暗を調節した瀟洒せうしやな離れの洋館で、花に疲れた一同は中央の真白き布をしたテエブルに集まつて、お茶を飲み、点心てんじんをつまみ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
いましばらく自分の歐洲に於ける淺はかな智識で推し量ると、佛蘭西の女の姿の意氣で美しいのは、希臘ギリシヤ伊太利イタリイから普及した美術の品のよい瀟洒せうしやな所が久しい間に外から影響したのでは無いか。
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのつた赤皮あかがは瀟洒せうしや洋書ほん
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
前年護謨林ゴムりんに従事して居た長田秋濤をさだしうたう氏夫妻が住んで居たと云ふ林間の瀟洒せうしやたる一をくよぎり、高地にある三井物産支店長の社宅の楼上で日本食の饗応を受けた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かる瀟洒せうしや夜会服やかいふくたのや、裾模様すそもよう盛装せいそうをしたのや、そのなかにはまたタキシイドのわか紳士しんしに、制服せいふくをつけた学生がくせい、それに子供こともたちもすくなくなかつた。軍服姿ぐんぷくすがたもちらほらえた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
俗に三年坂と呼ばれ、そこに転ぶと三年後には死ぬといふ伝説のある産寧坂の片側に、それまで竹藪のあつたところを切り開いて、そこに別荘風の瀟洒せうしやな家が間もなく建ちあがつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
瀟洒せうしやとした清い美を保つて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
氏は五十歳を幾つも越えないであらう。肉づきの締つた、ほそやかな、背丈の高い体に瀟洒せうしやとした紺の背広を着て、調子の低いさうして脆相もろさうな程美しい言葉で愛想あいそよく語つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
数分の後、私は姉の背後うしろに身を隠すやうに寄り添ひながら伯父の家へ入つた。先斗町ぽんとちやう並びの広い玄関口の一方の柱には、斜に描いた瓢箪の下に旅館浪華亭と書いた瀟洒せうしや掛行燈かけあんどんが懸けてあつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)