あく)” の例文
旧字:
忽ち又近くでえ切れぬように啼き出して、クンクンと鼻を鳴らすような時もあり、ギャオとあくびをするような時もある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かつては彼の胸の血潮をき立たせるようにした幾多の愛読書が、さながらあくびをする静物のように、一ぱいに塵埃ほこりの溜った書棚しょだなの中に並んでいた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
春三郎が醫局に行つてゐる間看護婦は文太郎の寢臺の裾に椅子を置いて暫く容子を覗つてゐたが先刻來に引較べ餘り靜かになつたのであくびを催した。
ペルリは章魚たこのようで、口もとがペルリとしていると思った。アダムスは大変に大きな口を開いていた。これはあくびでもした所を写したのであろう。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
栗うりの童は、逸足いちあしいだして逃去り、学生らしき男は、あくびしつつ狗をしっし、女の子はあきれて打守うちまもりたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夜の更けるまであくびをしながら、ただぼんやりと店の番をしてゐると、もう十一時半頃でしたらうか、いつもは十二時まで店をあけて置くんですが、今夜は右の一件ですから
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
天幕の破れ目から見ゆる砂漠の空の星、駱駝らくだの鈴の音がする。背戸せど田圃たんぼのぬかるみに映る星、籾磨歌もみすりうたが聞える。甲板に立って帆柱のさきに仰ぐ星、船室で誰やらがあくびをする。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
岡村はあくびをみしめて、いや有がとう、よく解った。お繁さんは兄の冷然たる顔色に落胆した風で、兄さんは結婚してからもう駄目よと叫んだ。岡村はに生意気なことをと目に角立てる。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうして庭園のように、他所よそ行きの花卉かきだの、「見てくれ」の装飾だのがしてないところに、又しようとも思わない無造作のところに、思いさま両手を伸ばしてあくびでもするような気持になれる。
菜の花 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と、無作法に大きなあくびをした。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
パタリと話がんだ。雪江さんも黙って了う、松も黙って了う。何処でか遠方で犬の啼声が聞える。所謂いわゆる天使が通ったのだ。雪江さんはあくびをしながら、ついでのびもして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あくび」御出来ごしゅったいのよし。小生ただ今向鉢巻大頭痛にて大傑作製造中に候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と又あくびをして、「ああああ、古屋さんの勉強の邪魔しちゃッた。あたしもう奥へくわ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「ああ辛気しんきだこと!」と一夜あるよお勢があくびまじりに云ッてなみだぐンだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お勢は退屈で退屈で、あくびばかり出る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)