樹根きのね)” の例文
路傍の林の簇葉むらはは、その光を漉して、青い光を樹根きのねへ投げ、林の奧は見透されないやうに、光と影が入り亂れて、不思議な思ひを起させる。
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
市郎は洋杖すてっき把直とりなおして、物音のするかたへ飛び込んで見ると、もう遅かった。わずか一足ひとあし違いで、トムは既に樹根きのねに倒れていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひるかりしてけものしよくとし、夜は樹根きのね岩窟がんくつ寝所ねどころとなし、生木なまきたいさむさしのぎかつあかしとなし、たまゝにて寝臥ねふしをなす。
小児等こどもらの糸を引いてかけるがままに、ふらふらと舞台を飛廻り、やがて、樹根きのねどうとなりて、切なき呼吸いきつく。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児等こどもらの糸を引いてかけるがまゝに、ふら/\と舞台を飛廻とびまわり、やがて、樹根きのねどうと成りて、切なき呼吸いきつく。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
怪しの者は首肯うなずいて、たちまちひらりと飛び出したかと見るうちに、樹根きのね岩角いわかど飛越とびこえ、跳越はねこえて、小さい姿は霧の奥に隠れてしまった。お杉は白い息をいて呵々からからと笑った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがてふもとちかづいた頃、忠一はある樹根きのねに腰をかけて草鞋わらじを結び直した。巡査はこれを待つあいだ不図ふと何を見出したか、たちま疾風しっぷうの如くに駈け出して、あなたの岩蔭へ飛び込んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)