横面よこづら)” の例文
もし夫が臍繰金へそくりがねを持って居ることが分ると、大いに妻が怒ってその夫に喧嘩を仕掛け甚しきは夫の横面よこづらをぶんなぐるというのもある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
白地の帷子かたびらを着た紳士の胸や、白粉おしろいをつけた娘の横面よこづらなどへ泥草鞋がぽんと飛んで行っても、相手が子供であるから腹も立てない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は直立不動の姿勢を取り、両膝をぎゅっと締め合わせ、横面よこづらをぴしゃりと来るぐらいとも思わず、いよいよ図に乗ってきた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
がんりきは平手でピシャリと横面よこづらなぐっておいて、足を飛ばして腹のところを蹴ると、これも真逆まっさかさまに転げ落ちる。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
前へ立った漁夫りょうしの肩が、石段を一歩出て、うしろのが脚を上げ、真中まんなかの大魚のあごが、端をじっているその変な小男の、段の高さとおなじ処へ、生々なまなまと出て、横面よこづらひれの血で縫おうとした。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慶三は平手でぴっしゃりお千代の横面よこづらを喰わしたが、お千代は大声で泣き出すばかり、なかなか押えた袂を放さない。老婢はうろうろして代り代りにまア旦那、まア奥さんとこれも半分は泣声である。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自動車王は鋸の腹で横面よこづらを張り飛ばされたやうに目を白黒させた。
鬚深ひげふか横面よこづら貼薬はりくすりしたる荒尾譲介あらおじようすけは既にあを酔醒ゑひさめて、煌々こうこうたる空気ラムプの前に襞襀ひだもあらぬはかまひざ丈六じようろくに組みて、接待莨せつたいたばこの葉巻をくゆしつつ意気おごそかに、打萎うちしをれたる宮と熊の敷皮をななめに差向ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それこそは、横面よこづらはられた猫のやう、唸りを発し、湧き上り
と言ったかと思うと慢心和尚は、いきなり手で、兵馬の横面よこづらをピシャリと打ちました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かぜは……昼間ひるまあをんだやまかひからおこつて、さはつてえだ岩角いはかど谷間たにあひに、しろくものちぎれてとりとまるやうにえたのはゆきのこつたのか、……とおもふほど横面よこづらけづつてつめたかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)