ばえ)” の例文
旧字:
恋人を捨てゝ、処女としての誇を捨てゝ、世の悪評を買ひながら、全力を尽くして、戦つた戦ひは、戦ひばえのしない無名の戦だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
コルトーのバラードにおける出来ばえは、ワルツ以上に見事なもので、その颯爽味さっそうみと、含蓄の美しさは、名人芸の至極と言ってよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
私は、「虫」以来、彼女の作曲について遠ざかっていたが、「秋」の出来ばえをききにきてくれといわれ、出来がよかったので嬉しかった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いやいやながら久米一にびを入れその日に、いよいよ焼くとなった増長天王ぞうちょうてんのうの像をうけ取った。みると、さすがにりんぜっしたできばえである。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出来上がると、師匠も、なかなかな出来ばえだとほめてくれられ、公使館の人が検分に来た時は大変な気に入りで、よろこんで持って帰りました。
糸七のおなじ話でも、紅玉ルビー緑宝玉エメラルドだと取次ばえがするが、何分焼芋はあやまる。安っぽいばかりか、稚気が過ぎよう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一等賞の関東地方の地図は年々おんなじ位の出来ばえとなり、もうその村が格段開けるとかなんとかしない限り、その出来栄は大体変らないといふのである。
詩と其の伝統 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
知りばえのしない人間であつたら御互おたがひに不運とあきらめるより仕方がない、たゞ尋常である、摩訶まか不思議は書けない。
『三四郎』予告 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今までしゃべっていた話家が、って腰をかがめて、高座の横から降りてしまうと、入り替って第二の話家が出て来る。「替りあいまして替りばえも致しません」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小田切さんとしてはほんとに働きばえのする、腕のふるいどころでしょう。外交官としては面白い檜舞台。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
老込んだ証拠には、近頃は少し暇だと直ぐ過去を憶出おもいだす。いや憶出おもいだしても一向憶出おもいだばえのせぬ過去で、何一つ仕出来しでかした事もない、どころじゃない、皆碌でもない事ばかりだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一方不景気な抓み鼻を持っている人は、何だか顔を出しても出しばえがしないような気がするし、他人も目星をつけないままについ引込思案になるような事がないとも云えませぬ。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
栄一は深入りして弟の計画の底をたたこうとはしなかったが、才次は平生胸の中にもだもだしている不満な思いを兄にこそ洩らしばえがするように感じて、何かと問わず語りをした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
其頃画いた祖父の肖像画の出来ばえが故郷の人達を驚かしたのに因ると伝へ聞いてゐる。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
が、この方がよっぽどかつばえがしました。まあまあお聞き下さいまし、その女の子はわっしの働きでいいところへ隠しておきますよ。あいつはね、人質ひとじちになるんですから、大事な代物しろものですよ。
一時は随分そのために苦労もし、骨も折つて見たのであるが——人一倍いろいろなことをやつて見たいと思つてゐるが、その出来ばえの如何といふことよりも、何うもそれでは自分で満足が出来ない。
通俗小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
恋人を捨てゝ、処女としての誇を捨てゝ、世の悪評を買いながら、全力を尽くして、戦った戦いは、戦いばえのしない無名のいくさだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
苦味にがみばしった立派な顔が、綺麗になる。僕なんぞの顔は拭いても拭きばえがしないから、お上も構わない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「あゝ始終いてちや、ばえがしないから駄目ですよ」と美禰子が評した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あんまり変りばえもしない服装なりだね」と岡田が云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)