柑子かうじ)” の例文
積みかさねたる柑子かうじ、地にゆだねたる鐵の器、破衣やれごろも、その外いろ/\の骨董を列ねたる露肆ほしみせの側に、古書古畫を賣るものあるを見き。
しかもその後からはすばえをふり上げた若殿様が「柑子かうじ盗人ぬすびとめ、待て。待て。」と仰有おつしやりながら、追ひかけていらつしやるのではございませんか。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かやしぶわびし。子供こどものふだんには、大抵たいてい柑子かうじなり。蜜柑みかんたつとし。輪切わぎりにしてはちものの料理れうりにつけはせる。淺草海苔あさくさのりを一まいづゝる。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「若菜集」にはまた眞白く柔らかなる手にきばんだ柑子かうじの皮をなかばかせて、それを銀のさらに盛つてすゝめらるやうな思ひのする匂はしくすゞしい歌もある。……
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
やがて石榴も、葡萄も、柿も、柑子かうじも、目に立つ果実は、ことごとく枝から蔓からぎ取られる時が来た。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
己はこれを眺めながら、あさまつげの苦味のあると、柑子かうじの木の砂糖のやうに甘い匂とを吸つてゐた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
さればわがゐしところにては、美しきアウローラの白き赤き頬、年ふけしため柑子かうじに變りき 七—九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
にくき人に柑子かうじまゐりてぬりごめの歌問ふものか朝の春雨
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
ああ、柑子かうじ黄金こがね熱味ほてりぎつつも思ひぞいづる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
六月の柑子かうじの山は
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
數日の後、我はマリアと柑子かうじの花かぐはしき出窓の前に對坐して、この可憐なる少女の清淨なる口の、その清淨なる情を語るを聞きつ。少女の語りけらく。
いへの子はしよくにならべぬ。そのなかに柑子かうじにほひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
黄金こがねなす柑子かうじえだにたわわなる
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
山腹の果圃くわほは黄なる斑紋ある青氈あをがもに似たり。その斑紋は檸檬リモネ柑子かうじなどの枝たわむ程みのりたるなり。
また思ふ、柑子かうじたな愛想あいそよき肥満こえたる主婦あるじ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
黄金なす柑子かうじは枝にたわわなる
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
柑子かうじだつ雲の濡いろ、そのひまに星や瞬く。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わかき日に五月さつき柑子かうじ黄金こがね
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)