木石ぼくせき)” の例文
即ち木石ぼくせきならざる人生の難業ともいうべきものにして、既にこの業をおさめて顧みて凡俗世界を見れば、腐敗の空気充満して醜に堪えず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
縁のそとは箒目ほうきめをみせたお庭土、ずウッと眼路めじはるかにお芝生がつづいて、木石ぼくせきの配合面白く、秋ながら、外光にはまだ残暑をしのばせる激しいものがある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしながら、博士も木石ぼくせきではない。一週間も二週間もこんなところに籠城ろうじょうしているのにきてきた。
嫁はどんなのがいいかと聞かれて、その養子の答えるには、嫁をもらっても、私だとて木石ぼくせきではなし、三十四十になってからふっと浮気うわきをするかも知れない、いや
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ポロ/\こぼしたところから察すると、多少そんな傾向があったのかも知れない。我輩も元来木石ぼくせきじゃない。そぞろに哀れを催して、或日曜に墓詣りをする積りで出掛けた
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
可憐いとほしねんむらむらとへがたく、きみゆゑにこそくまでにくすわれ木石ぼくせきならぬ令孃ひめくかるべきはずなし、此荊棘このいばらなかすくひしてと、かげだなるこひたけはしら詫住居わびずまゐおもひぬ。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
支那しなおそろしい道の悪いところきまして木石ぼくせきんではこびますのが、中々なかなか骨の折れた事で容易よういではございません、勿論もちろん牛は力のあるのが性質うまれつきゆゑつまりはくにめだから仕方しかたがございませんが
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
木石ぼくせきも神と思つて信じたら、病氣も直るといふのと同樣、矢ッ張り、催眠術、よく云つて、自己催眠にしか當らないことになる。暗示も、膽力鍛錬も、そんなもののお世話になる必要がない。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
而もまるで木石ぼくせきをでも見るように、私の存在を無視した見方だった。私は嫌な気持になって横を向いたが、生憎それが先程の子供の方だった。そして私は暫く、子供の寝顔を睥みつけてやった。
林檎 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
だが、左膳は木石ぼくせき——でもあるまいが、始終冷々れいれいたる態度をとって、まるで男友達と一つ屋根の下に起き伏している気持。左膳の眼には、お藤は女とはうつらないらしいので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一夫衆婦しゅうふに接し、一婦衆男しゅうだんに交わるも、木石ぼくせきならざる人情の要用にして、臨時非常の便利なるべしといえども、これは人生に苦楽相伴うの情態を知らずして、快楽の一方に着眼し
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「いくら金博士でも、身は木石ぼくせきならずではないか」
然るに内行を潔清に維持して俯仰ふぎょうずる所なからんとするは、気力乏しき人にとりて随分一難事とも称すべきものなるが故に、西洋の男女独り木石ぼくせきにあらずまた独り強者にあらず
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)