有福ゆうふく)” の例文
この亀岡甚造という方は、その頃もはや年輩も六十以上の人で、当時は御用たしのようなことをしておられた有福ゆうふくな人でありました。
食物をつけとどける人も少くない、毎晩くる中にも、お茶菓子をかかさずもってくるので、火鉢の辺りは有福ゆうふくだった。
大分だいぶ貯えも有りまして、白金台町しろかねだいまちへ地面をちまして、庭なども結構にして、有福ゆうふくに暮して居りました。
ともかくも留守宅は有福ゆうふくに暮しているのです。子供たちはいつもおやつにはお菓子とくだものとを充分にいただいている。ロオラはいつもおすそ分けに預かっている。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
あまりに日本橋といえばいなせに、有福ゆうふくに、立派な伝統を語られている。が、ものには裏がある。
養蚕ようさんおも副業ふくぎょうの此地方では、女の子も大切だいじにされる。貧しいうち扶持ふちとりに里子をとるばかりでなく、有福ゆうふくうちでも里子をとり、それなりに貰ってしまうのが少なくない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
田口というは昔の家老職、城山の下に立派な屋敷を昔のままに構えて有福ゆうふくに暮らしていましたので、この二階を貸し、私を世話してくれたのは少なからぬ好意であったのです。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わたしはどの点より見ても、しごく有福ゆうふくになったのです。お給金きゅうきんはらいもどして、一本だちの人間にんげんにしていただこうとおもえば、いつでもそのくらいのことはできるのですよ。
向うでも流石にすぐに引っ込んだが、後できけば、有福ゆうふくななにがしの子爵とやらであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
平野町の里方は有福ゆうふくなので、おばあ様のおみやげはいつも孫たちに満足を与えていた。それが一昨年太郎兵衛の入牢にゅうろうしてからは、とかく孫たちに失望を起こさせるようになった。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さあ骨董がどうして貴きが上にも貴くならずにいよう。上は大名たちより、下は有福ゆうふくの町人に至るまで、競って高慢税を払おうとした。税率は人〻が寄ってたかってり上げた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
無論費用は坊さんのふところから出るのではありません。そんな訳で真宗寺しんしゅうでらは大抵有福ゆうふくでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山間の孤駅であるが一寸ちょっと有福ゆうふくらしき町である。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
お前の留守中いもとのお藤をたって貰いたいという其の人は、もと金森家の重役粥河圖書という人で、近頃竹ヶ崎へ田地や山を買い、有福ゆうふくの人で、奥様が此の間お死去かくれ
殊にお辰は叔父おじさえなくば大尽だいじんにも望まれて有福ゆうふくに世を送るべし、人は人、我は我の思わくありと決定けつじょうし、置手紙にお辰少許すこしばかりの恩をかせ御身おんみめとらんなどするいやしき心は露持たぬ由をしたた
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
有福ゆうふくに隠居をなすってらっしゃる。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)