日蔭者ひかげもの)” の例文
第一その学校は、この前のような日蔭者ひかげものの学校ではなかった。設備の整った堂々たる学校であったように私には思われる。
こうした日蔭者ひかげものの気楽さにれてしまうと、今更何をしようという野心もなく、それかと言って自分の愚かさを自嘲じちょうするほどの感情の熾烈しれつさもなく
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つまり、この女は、我身を一生日蔭者ひかげものにし、親子の縁を切てまでも、恋の恨みをはらしたかったのだ。無論永久に絹川雪子に化けていることは出来ない。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかるに貴様あなたさまとの関係と同じく矢張やはり男の家で結婚を許さない、そのめ男はつひに家出して今は愛宕町あたごちやう何丁目何番地小川方をがはかたに二人して日蔭者ひかげもの生活くらしをして居る。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「あの日蔭者ひかげもの陰気いんきうたと、わたしうたとくらべものになるかい。おさまにうかがってみても、どちらが上手じょうずかわかることだ。」と、かえるは、ひとりごとをしたのでした。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これはかねてから日蔭者ひかげものでいた林友吉を、どうかして大手を振って歩けるようにして遣りたいと思っていた矢先だったから、絶好の機会チャンスと思って提案した訳だったがね。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのはかない短い生涯を、針のむしろに耐えて、井の中の蛙みたいな事大主義の連中からまで、何で、猜疑さいぎされ、軽蔑けいべつされ、ひとり怏々おうおう日蔭者ひかげものじみた日々を過ごしていなければならないか。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは松木と五代は極々日蔭者ひかげもので、青天白日の身と云うのは清水一人、そこで清水がず横浜にあがって、夫れから亜米利加アメリカ人のヴエンリートと云う人にその話をした所が、如何どうでも周旋しよう
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いや、恐らく其は不可能のことゝ謂はなければならぬ。と謂つて周三は、人權を蹂躪じうりんして、お房を日蔭者ひかげものにして圍ツて置くだけのゆう氣も無かツた。これがまたあたらしい煩悶となツて、彼を惱ませる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
省作の胸中は失意も憂愁もないのだけれど、周囲からやみ雲にそれがあるように取り扱われて、何となし世間と隔てられてしまった。それでわれ知らず日蔭者ひかげもののように、七、八日奥座敷を出ずにいる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しな家族かぞく何處どこまでも日蔭者ひかげものであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
日蔭者ひかげもの、という言葉があります。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「一口にいうと日蔭者ひかげものだ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日蔭者ひかげものの身ではなあ」
市子はその時分日蔭者ひかげものの母親がうらやましがったほど幸福ではなく、縁づいた亭主ていしゅに死なれ、しゅうとめとの折合いがわるくて、実家へ帰ったが、実家もすでに兄夫婦親子の世界で居辛いづら
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)