教鞭きょうべん)” の例文
私は到底心に安んじて、教鞭きょうべんる事は出来ない。フランス語ならば、私よりもフランス人の方が更にくフランス語を知っている。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
学校に教鞭きょうべんを執るとか、あるいは雑誌の編集にたずさわるとかして、私のように著作一方で立とうとしているのもめずらしいと言われた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これはやはり開成中学にも教鞭きょうべんをとった天野という先生が編輯へんしゅうしていたが、その中に、幸田露伴先生の文章が載ったことがある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかも、そのうちの三名は教室にあって死亡したとかにて、たちまち幽霊教室の名が伝わり、安心して教鞭きょうべんをとるものがないとのことを聞いた。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのある教師とは、やはり先生の膝下に教鞭きょうべんを執っている吉川訓導なのでございますが、わたしはその理由を詳しく証明いたしたくはございません。
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その頃田島氏も上京して、日本女学校に教鞭きょうべんっておられたが、私が言語学を修めると聞いて、大そう喜ばれた。
「古琉球」自序 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
かれの宿直をした室、いっしょに教鞭きょうべんを取った人たち、校長、それからオルガンの前にもつれて行ってもらった。
『田舎教師』について (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一時隣国の山間の小学校でいっしょに教鞭きょうべんを執ったことがあったので、多少打融けた話もしていたのだったが、それさえ年を経るとともに、隔たりが増して
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
相変らず上野で教鞭きょうべんっていられましたが、職業も違い、社会的立場も異なって、その後ったことがありませんから、とんとその意味はわからないのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三年間支那のある学堂で教鞭きょうべんを取っていた頃に蓄えた友達の金は、みんな電鉄か何かの株に変形していた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて、博覧会も終りに近づいた頃、私は彫工会の事務所にまだいましたが、或る日大村西崖氏が見え(氏はその頃京都美術学校に教鞭きょうべんを取られていたと記憶す)
アントアネットについては、何かの学校にはいって教鞭きょうべんを取らせるか、あるいは音楽学校にはいってピアノの賞金を得させるかが、ジャンナン夫人の望みだった。
目下中風で臥床がしょうしており、夫人だけが同志社に教鞭きょうべんったり個人教授をしたりして夫を養っているのであるが、夫が発病して以来自宅では敏子以外に生徒を取らず
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
折節松山中学校に教鞭きょうべんを取りつつあった夏目漱石氏の寓居に同居し、極堂きょくどう愛松あいしょう叟柳そうりゅう狸伴りはん霽月せいげつ不迷ふめい一宿いっしゅくらの松風会員諸君の日参して来るのを相手に句作にふけったのであったが
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
岡田寒泉は医学国文に通じ、幕府に召されて昌平黌に教鞭きょうべんを執ったが、一方経世済民の道にもくわしく、一度出でて代官職となるやまれなる政績を挙げ、治国家としても世を驚かした人物である。
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
教え方は大体に厳重で、怠ける生徒や不成績の生徒はあたまから叱り付けられた。時には竹の教鞭きょうべんで背中を引っぱたかれた。癇癪かんしゃく持ちの教師は平手で横っ面をぴしゃりと食らわすのもあった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かくて彼は差し当り独立のはかりごとをなさん者と友人にもはかりて英語教師となり、自宅にて教鞭きょうべんりしに、肩書きのある甲斐かいには、生徒のかずようようにえまさり、生計の営みに事を欠かぬに至りけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かれは栃木県のもので、久しく宇都宮に教鞭きょうべんをとっていたが、一昨年埼玉県に来るようになって、ちょっと浦和にいて、それからここに赴任ふにんしたという。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこに教鞭きょうべんを執っている足立をも訪ねよう、とにかくこれから東海道を下って行って見るつもりだと話した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世はこぞって書生の暴行を以てとなすものらしい。曾てわたくしも明治大正の交、ぼうけて三田に教鞭きょうべんった事もあったが、早く辞して去ったのは幸であった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もっとも人がなければしかたがないが、ここに広田先生がある。先生は十年一日のごとく高等学校に教鞭きょうべんを執って薄給と無名に甘んじている。しかし真正の学者である。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その仏蘭西の青年の通っている古い大学こそ往昔むかしアベラアルが教鞭きょうべんを執った歴史のある場所であると聞いた時は、全く旧知に邂逅めぐりあうような思いをしたのであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)