擂粉木すりこぎ)” の例文
家人たちもいかなる異変出来しゅったいかと思い、おっ取り刀で、——女性たちは擂粉木すりこぎとかはさみとかほうきなどを持って、——集まって来た。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御存じとは思いますが、川越喜多院かわごえきたいんには、擂粉木すりこぎ立掛たてかけて置かないと云う仕来しきたりがあります。縦にして置くと変事がある。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれから丸半日、足を擂粉木すりこぎに飛び廻りましたよ。三河町が變な顏をするから、あつしはあつしで、外から犯人ほしを擧げるつもりだつたんで」
縦隊を少し右へ離れて運動場の方面には砲隊が形勝の地を占めて陣地をいている。臥竜窟がりょうくつに面して一人の将官が擂粉木すりこぎの大きな奴を持ってひかえる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
擂粉木すりこぎ擂鉢すりばちとを、くだんの日蓮宗派に属するお寺の坊さんが恭しく捧げて、祭壇の前へ安置した時、端坐していた道庵先生が、おもむろにそれに一瞥いちべつをくれて
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(臺所の被れ障子を蹴放して、助八は擂粉木すりこぎを持ちてをどり出づ。つゞいて助十は出刃庖丁でばぼうちやうを持ちて出づ。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
焙籠鉄灸あぶりこてっきゅうに金火箸、さわらの手桶は軽かつた、山椒の擂粉木すりこぎこいつァ重い、張子の松茸おお軽い(下略)
下町歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
その間に、惣右衛門は、驚きの眼をみはっている仲居や妓たちの間を、ずかずかと通って、ぽかんと、擂粉木すりこぎを手に立っている米磨ぎ笊の顔のそばへ、自分の顔を突きつけた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風は無かったが、甲板で仕事をしていると、手と足の先きが擂粉木すりこぎのように感覚が無くなった。雑夫長が大声で悪態をつきながら、十四、五人の雑夫を工場に追い込んでいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
さっきから手にしてたたずんでいた擂粉木すりこぎを、まだ握ったまんまなので、われながらアッ! とふきだしそうになるのをおさえつつ、ほどよいところから、エヘン! 一つさりげなく咳払いをして
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一合なら五人前ぐらいになる。刻み昆布の入った擂鉢の中へ前述の醤油加減しただしを、最初少しばかり入れて、それを杉箸五本くらいを片手に持って、かきまわすのである。擂粉木すりこぎでするのもよい。
昆布とろ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
割合にさき擂粉木すりこぎ胡麻ごまをすり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「あれから丸半日、足を擂粉木すりこぎに飛び廻りましたよ。三河町が変な顔をするから、あっしはあっしで、外から犯人ほしを挙げるつもりだったんで」
このダムダム弾は通称をボールととなえて、擂粉木すりこぎの大きな奴をもって任意これを敵中に発射する仕掛である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭からすっぽりと、米磨こめとざるを被っているのだ。手に持って来たのは、それも仲居が台所から探して来た擂粉木すりこぎであった。そして、芸妓げいしゃに解かせた緋鹿子ひがのこ扱帯しごきを、後結びのたすきにかけ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを擂粉木すりこぎのような棒で、いちいちコツコツと叩きながら一通り読み立て
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほっとした草臥くたびれたなりで、真中まんなかに三方から取巻いた食卓ちゃぶだいの上には、茶道具の左右に、真新しい、擂粉木すりこぎ、および杓子しゃくしとなんいう、世の宝貝たからものの中に、最も興がった剽軽ひょうきんものが揃って乗っていて
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
健棒症だか擂粉木すりこぎだか知らないが、あれぢや何んの役にも立ちませんよ。兎に角六本木の庄司へ送り屆けて來ましたが、お銀を見せても、お舟を
足を擂粉木すりこぎにしていたものであろう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突き破つて、徳利と擂粉木すりこぎが飛んで來たが、あの夫婦喧嘩と來ると、ハタの者の命が危ない。でも、どうも、大變な長屋だが、越すに越されず飛んだ難儀で——
「尤も、大概出て來ました。翌る日か、遲くて三日目くらゐには、誰かが見付けます。簪が火鉢の灰の中に突つ立つてゐたり、擂粉木すりこぎが佛壇の中にあつたり、徳利が水甕みづがめの中に沈んでゐたり」
「もっとも、たいがい出て来ました。あくる日か、遅くて三日目くらいには、誰かが見付けます。簪が火鉢の灰の中に突っ立っていたり、擂粉木すりこぎが仏壇の中にあったり、徳利が水甕みずがめの中に沈んでいたり」