手附てつき)” の例文
八州廻りの目あかしの中でも古狸の名を取っている常陸ひたち屋の長次郎が代官屋敷の門をくぐって、代官の手附てつきの宮坂市五郎に逢った。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「分りませんか。これを御覧なさい」と、ニナール姫は仏像のひざのあたりから、台坐の下まで、なで下ろすやうな手附てつきをしました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
旦那様もおし、私も唖、手附てつきで問えば目で知らせ、身振で話し真似で答えて、御互にすっかり解った時は、もう半分あだかえしたような気に成りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
書面しよめんにし訴へいで町奉行所にては是ぞ大坂にうはさの有者しか理不盡りふじんの振舞なりとて早速役人を出張せしめ速かに召連めしつれまゐるべし仰せかしこまり候とて手附てつきの與力兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……こゝの此の書棚の上には、花はちょうしてなかつた、——手附てつきの大形の花籠はなかごと並べて、白木しらききりの、軸ものの箱がツばかり。其の真中のふたの上に……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すっかり恐縮して外桜田そとさくらだのお屋敷へ参上してみると、誰かお手附てつきの御用人にでも会って何か話があるのだろうと思って来たのが、直接殿様にお眼通りするのだという。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仲間の友達が来ると、音楽家は危つかしい手附てつきで、その嬰児あかんぼを抱いて来て見せびらかしたものだ。
「いき」の無関心な遊戯が男を魅惑する「手管てくだ」は、単に「手附てつき」に存する場合も決して少なくない。「いき」な手附は手を軽く反らせることや曲げることのニュアンスのうちに見られる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
朴は冷々と気持ちがいいのであろう、玄関の長い廊下に寝そべって、私が石油コンロを鳴らしている手附てつきを見ていた。大分、錆附さびついてはいたけれど、灰色のエナメルが塗ってあって妙に古風だ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その羽をおぼつかない手附てつきで帽子にじつけなどしました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
やっとのことで入道が一石、千貫の石を置くような手附てつき
と、妙な手附てつきをして阿片あへんを吸う真似をした。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
……こゝの書棚しよだなうへには、はなちやうしてなかつた、——手附てつき大形おほがた花籠はなかごならべて、白木しらききりの、ぢくもののはこツばかり。眞中まんなかふたうへに……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、だらしなく画絹の前に坐ると変な手附てつき馬鈴薯じやがいものやうなものをさつとなすくつた。そしてとろんこの眼でじつと見てゐたが「此奴こいつかん。」と言つて、画絹をさつと放り出した。
小姓はふなのやうに泳ぐやうな手附てつきをした。それを見て一座は声を揚げて笑つた。