忍耐がまん)” の例文
ぐりつけられるように。……金石街道でお優さんと死のうとした、並木の松に、形がそっくりに見えて忍耐がまんがならないのです。——
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるひは娘共むすめども仰向あふむけてゐる時分じぶんに、うへから無上むしゃう壓迫おさへつけて、つい忍耐がまんするくせけ、なんなく強者つはものにしてのくるも彼奴きゃつわざ乃至ないしは……
それは鍛冶屋の隣りのおよし寡婦やもめが家、月三圓でその代り粟八分の飯で忍耐がまんしろと言ふ。口に似合はぬ親切な爺だと、松太郎は心に感謝した。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と心を締めて居るうちに、漸々だん/″\眠くなって来たから、もゝつめッたり鼻をねじったりして忍耐がまんしても次第に眠くなる、酒を飲んで居るからいけません。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「女がなんかしていこうっての、きっと、厭なことも多いでしょうよ。どんな厭なことでも、忍耐がまん出来る?」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その用意と時刻とを思い合せますと、吉宗はいよいよ忍耐がまんならないで、自身、徳川万太郎の憎むべき行為の実相を突き止めようと思い立ったものに相違ありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝が不足なほどにこっちにも面白くないのあるは知れきったことなれば、双方忍耐がまんしあうとして忍耐のできぬわけはないはず、何もわざわざ骨を折って汝が馬鹿になってしまい
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは鍛冶屋の隣りのおよし寡婦やもめが家、月三円で、その代り粟八分の飯で忍耐がまんしろと言ふ。口に似合はぬ親切な野爺おやぢだと、松太郎は心に感謝した。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
伯父さんは堅いかただから、すぐ大刀だいとうふるって躍込おどりこみ、打斬うちきろうかとは思いましたが、もう六十の坂を越した御老体、前後の御分別がありますから、じっと忍耐がまんをして夜明を待ちました。
永遠性を誓えない邪恋を押退おしのけ純一無二のものでなければならないと、いやしむべき肉の恋をこばんで、苦しむ身に投げつける言葉のそれは、まだ忍耐がまんするとしても、名ばかりの夫妻とはいえ
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
路はもとより人跡じんせき絶えているところを大概おおよその「かん」で歩くのであるから、忍耐がまん忍耐がまんしきれなくなってこわくもなって来れば悲しくもなって来る、とうとう眼をくぼませて死にそうになって家へ帰って
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昨夜ゆうべめえは、すんで捕捉とっつかまって、ポカリとやられちまう処だッたんだ、以前もとはお武家さむらいで、剣術やっとうの先生だから、処がモウ年を取っておいでなさるから、忍耐がまんをして今朝己を呼びによこしたんだが
忍耐がまんが出来るまでは口にする人じゃなし、それに、ああすればこうと、ポンといえば灰吹きどころじゃなく心持ちを読んで、ゆいところへ手の届くように、相手に口をきらせやしないから
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)