心魂しんこん)” の例文
かくのごとき緻精ちせい巧妙を極めし函なるがゆえに、この木函作製のためには、クレテ以下六人の工人が昼夜兼行、その心魂しんこんの限りを尽しつつ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これを決するためには終日終夜心魂しんこんを痛め、あるいはひざまずいて神意を伺わんとしたり、あるいは思案に沈んで、ほとんど無意識に一室をしたという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
心魂しんこんを打ち込んで介抱したせゐか、大分容體も機嫌もよくなつたやうで、昨日きのふあたりから、床の上へ、金之助に助けられて、起き上がつたりしてゐるさうです
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
山谷さんこくに答え心魂しんこんに徹して、なんとも形容のできないすさまじき気合ともろとも、夜の如く静かであった島田虎之助は、颶風ぐふうの如く飛ぶよと見れば、ただ一太刀で
どんなにったかれなかったが、心魂しんこんかたむけつくす仕事しごとだから、たとえなにがあっても、そのまではちゃァならねえ、きますまいとちかった言葉ことば手前てまえもあり
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
九月一日、二日、三日と三宵にわたり、庭の大椎おおしいくろく染めぬいて、東に東京、南に横浜、真赤に天をこがす猛火のほのおは私共の心魂しんこんおののかせました。頻繁な余震も頭を狂わせます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
四ツにわけ一に現夢げんむ二に虚夢きよむ三に靈夢れいむ四に心夢しんむとす現夢げんむとはうつゝまぼろしのごとく見ゆるをいふ虚夢きよむとは心魂しんこんつかれよりして種々しゆ/″\樣々さま/″\の事を見るをいふ靈夢れいむとは神靈しんれい佛菩薩ぶつぼさつ御告おんつげをかうむるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それ緡蛮めんばんたる黄鳥は丘隅きゅうぐうに止るとと云う文句で始まっているこの曲はけだし春琴の代表作で彼女が心魂しんこんかたむつくしたものであろう詞は短いが非常に複雑な手事てごとが附いている春琴は天鼓の啼く音を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
戦わん、戦わん、この土にうけた生命いのちのあらん限りはと、戦うことの尊さ、戦うことの大なる意義、それらのことどもも、同時に、肝に銘じ、心魂しんこんに徹し、わが生涯は御階みはしの一門を守りて捨てん。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代助からふと寧ろ賛成な位なもので、かれめかけを置く余裕のないものにかぎつて、蓄妾ちくしようの攻撃をするんだと考へてゐる。親爺おやぢは又大分だいぶ八釜やかまである。小供のうちは心魂しんこんてつして困却した事がある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その嬉しさのうちには、やはり胸を騒がせるようなおののきが幾度か往来ゆききをします。その戦きはお君にとって怖ろしいものでなく、心魂しんこんとろかすほどに甘いものでありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あまり美しすぎるのと、親達のり好みが激しいので、十八の夏までも定まる婿がなく、贅を尽した振袖姿を、お供沢山に、街へ現しては、界隈かいわいの冷飯食いの心魂しんこんを奪うという有様だったのです。