御召おめし)” の例文
「大変遅くなりました。さぞ御窮屈でしたろう。あいにく御湯へ這入はいっていたものだから、すぐ御召おめしを持って来る事ができなくって」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しょ進上致しそろ、今日火急の御召おめしにて登城致し候処、存じの外にも、そこもとを手に掛け候よう上意蒙り申候。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ちつとも恐がることもなければ、吃驚びつくりなさることもありません。わたしは竜宮から来た使者つかひでございます。正助さんを竜王さま、乙姫おとひめさまが御召おめしでございます。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
此の日は筒井和泉守様は、無釼梅鉢けんなしうめばち定紋じょうもん付いたる御召おめし御納戸おなんどの小袖に、黒の肩衣かたぎぬを着け茶宇ちゃうの袴にて小刀しょうとうを帯し、シーという制止の声と共に御出座になりまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
翌日の午後六時、お君さんは怪しげな紫紺しこん御召おめしのコオトの上にクリイム色の肩掛をして、いつもよりはそわそわと、もう夕暗に包まれた小川町の電車停留場へ行った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御召おめしにつれて髭顔ひげがお二つランプの光にあらわれ、天幕の入口に蹲踞そんこした。若い方は、先刻さっき山鳥五羽うって来た白手しらで留吉とめきち、漢字で立派に名がかけて、話も自由自在なハイカラである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紫の御召おめしをひきかけた
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この黒人くろうとだか素人しろうとだか分らない女と、私生児だか普通の子だか怪しい赤ん坊と、濃いまゆを心持八の字に寄せて俯目勝ふしめがちな白い顔と、御召おめしの着物と
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云って、背中の子はたしかに自分の子に違ないと敬太郎は考えた。なおよく見ると前垂まえだれの下から格子縞こうしじまか何かの御召おめしが出ているので、敬太郎はますます変に思った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
成程なるほど銘仙めいせんだの御召おめしだの、白紬しろつむぎだのが其所そこ一面いちめんらしてあつた。宗助そうすけこのをとこ形裝なり言葉遣ことばづかひ可笑をかしいわりに、立派りつぱ品物しなもの脊中せなかせて歩行あるくのをむし不思議ふしぎおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぼんやり細君のよそ行着ゆきぎの荒い御召おめし縞柄しまがらを眺めながらひとりごとのように云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なるほど銘仙めいせんだの御召おめしだの、白紬しろつむぎだのがそこら一面に取り散らしてあった。宗助はこの男の形装なり言葉遣ことばづかいのおかしい割に、立派な品物を背中へ乗せて歩行あるくのをむしろ不思議に思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「出しておけって、あんな立派な御召おめしはござんせんわ。金田の奥さんが迷亭さんに叮嚀になったのは、伯父さんの名前を聞いてからですよ。着物のとがじゃございません」と細君うまく責任をがれる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)