平生ひごろ)” の例文
彼の父は洋筆ペンや万年筆でだらしなくつづられた言文一致の手紙などを、自分のせがれから受け取る事は平生ひごろからあまり喜こんでいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平生ひごろ小六こむずかしい顔をしている先生の意外な珍芸にアッと感服さしたというのはやはり昔し取った杵柄きねづかの若辰の物真似であったろう。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
五年前いつとせまへの事なりしが、平生ひごろの望足りて、洋行の官命をかうむり、このセイゴンの港までし頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとしてあらたならぬはなく
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして、平生ひごろの癖の松前追分を口笛でやり乍ら、ブラリ/\と引返して來ると、途中で外套を著、頭巾を目深に被つた一人の男に逢つた。然し別段氣にも留めなかつた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
当の獲物を射損じたばかりか、事にのぞんで弓弦が切れたのは平生ひごろの不用意も思いやらるるとあって、彼は勅勘ちょっかんの身となった。彼は御忠節を忘れるような人間ではなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人もしこころみに仲秋船をうかめてこのあたりに月を賞しなば、必ずや河も平生ひごろの河にあらず月も平生の月にあらざるを覚えて、今までかゝる好風景の地を知らで過ぐしゝをうらむるならん。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
平生ひごろよりは大いに身じまいを整え、ぞろりとした色男気取りで待合へ出かけました。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ああいう一徹な父親を持っている上に、平生ひごろからずいぶん口幅ったいことも言っていた男が、このに及んで逐電する! 彼にはどうしてもありうべからざることのように思われた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
すかされ機械仕掛きかいじかけのあやつり身上しんじやう松澤まつざはももうくだざかよとはやされんは口惜くちをしくなる新田につた後廻あとまははら織元おりもと其他そのほか有金ありがね大方おほかたとりあつめて仕拂しはらひたるうはさこそみゝよりのことなれと平生ひごろねらひすませしまと彼方かなたより延期えんき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
で、恋なればこそごとなき身を屈して平生ひごろの恩顧を思ふての美くしき姫を麿に周旋とりもちせいと荒尾先生に仰せられた。荒尾先生ほとほと閉口した。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
五年前いつとせまえの事なりしが、平生ひごろの望み足りて、洋行の官命をこうむり、このセイゴンの港までしころは、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして新たならぬはなく
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして、平生ひごろの癖の松前追分を口笛でやり乍ら、ブラリ/\と引返して来ると、途中で外套を着、頭巾を目深にかぶつた一人の男に逢つた。然し別段気にも留めなかつた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二十はたちの時、始めて人に誘われて藝者を揚げましたが、女達がずらりと眼の前に並んで、平生ひごろ憧れていたお座附の三味線を引き出すと、彼は杯を手にしながら、感極まって涙を眼に一杯溜めていました。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平生ひごろの望足りて、洋行の官命を蒙り、このセイゴンの港まで來し頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして新ならぬはなく、筆に任せて書き記しつる紀行文日ごとに幾千言をかなしけむ
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
重兵衛それが平生ひごろの遺恨で、ちよいとした手紙位は手づから書けるを自慢に、益々頭が高くなつた。規定きまり以外の村の費目いりめの割当などに、最先まつさきに苦情を言出すのは此人に限る。其処へ以て松太郎が来た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)